こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
決算書どこを見たらいいか分からない。。。
個人的にこれはとても勿体無い状態だと思っています。
せっかく重要性に気づいているなら、あとは目線が定まるだけで数字への理解度は大きく変わるので。
これは歯科医院さんでも同じで、患者さんにセルフケアの仕方を教えて欲しいと言われたら、ブラッシングのやり方の指導をされますよね。
意識は高いのにやり方が間違っているから、結果口腔内の状態があんまり良くない、ということは専門家としてはモヤモヤするはずです。
ということで、今回は「これだけは見ておいて欲しい」という財務諸表への目線の定め方、つまり分析のポイントをお伝えしていきます。
顧問税理士からもらえる資料に今から紹介する指標が記載されていればぜひその数値探していただいて、記載がなければ試算表や決算書をみながら電卓を叩いてみてください。
歯科は融資依存タイプ
具体的な分析方法をお伝えする前に、その背景にある歯科医院の経営の特徴を考えてみましょう。
特筆すべき点はいくつかありますが、なかでも必要資金の融資依存度が高いという点は特徴的かと。
これは僕が説明するまでもなく、読者の方は肌で感じていらっしゃいますよね。
何かそれまで市場にないビジネスを始めようとするならわかりますが、個人事業主が通常の開業でも(承継やM&Aではなく)新規開業であれば億を超える開業費が必要になる時代です。
という事情もあり、よっぽど特殊な事情がない限り、融資をお願いすることになります。
しかも融資をお願いするのは、何も開業時だけではなくて。
医院経営をしていくと何度も融資をお願いする場面が出てきます。
(実際開業歴に関係なく返済残高がゼロの歯科医院の財務諸表は見たことがありません。)
これは増床や分院展開をしなくても、です。
理由は設備の入れ替えが必要だから。
日進月歩で最新機器はどんどん出てきて、それまでできなかったことができるようになる、ということは日常茶飯事かと思います。
最新機器にする生産性も上がるので、その度に設備投資をしたほうがいいか迷う方も。
数年単位でレセコンの入れ替えもありますからね。
あとは単純に、医療機器が壊れやすいという理由もあります。
主要機器が壊れたら(保険をかけていれば別ですが)診療がストップしてしまいますので、多少のお金をかけてでも復旧させますよね。
一応最初に断っておきますが、融資をお願いすることが悪いことだとは微塵も思っていませんし、むしろ必須戦略だと思っています。
でも、だからこそ借入額が適正か否かを見極める財務分析をする必要があるのです。
返済能力を測る債務償還年数
歯科医院では開業時やユニット増設の際に、通常は借入をしますよね。
あとは最新機器をいれるときなども借入をするケースが多いです。
「債務償還年数」とは、借入金を今の収益力で返すのなら何年かかるかを示す指標です。
極端な話、銀行との契約上の返済期間が10年なのに、債務償還年数が100年だったら利益不足もしくは借過ぎ、ということになります。
算式はこのとおりです。
債務償還年数=借入額(※)÷(経常利益+減価償却費ー税金)
※
分子の借入額から経常運転資金や現預金を差し引く、(借入額ー経常運転資金ー現預金)÷(経常利益+減価償却費ー税金)という算式もありますが、これはより”実質的な負債”で計算する方法です。
分子の算定方法は金融機関によってまちまちですが、経常運転資金の説明をしだすと長くなるので、詳細については顧問税理士に聞いていただければと。
ただ、融資の面談をするときに、取引金融機関が審査上、分子をどう計算しているかを担当者に事前に確認することをお勧めします。
要は、いまの利益を出し続けた場合の借入金の返済年数を算出しています。
債務償還年数が短ければ短いほど返済力は高く、長ければ長いほど返済力は低いと評価されます。
ちなみに減価償却費を足し戻しているのは、減価償却費はキャッシュアウト(支出)を伴わない費用だからです。
減価償却費の性質については、この説明で理解していただけるかと。
減価償却とは会計用語です。
https://www.threads.com/@shimada.masaki_15/post/DKLdTa_yp07?xmt=AQF0PfKvcC9WMoktaPHGsddS2ArmqdU05XP7SADUhuHJiA&slof=1
資産の購入代金を使用期間に分けて費用化していくルールで、使っていくうちに価値が減る資産が対象になります。
その目的は一年間の利益を正しく計算するため。
たとえば歯科のユニット。複数年使えます。
で、会計は「収益」と「その収益を得るために必要な経費」が上がるタイミングを一致させたいという概念があります。
もしユニット一台500万円の場合払ったタイミングで一度に500万円経費にすると、まるで最初の一年間しか使えなかったような利益計算になります。
だから減価償却という会計ルールで、使用期間に分けて費用化していきます。
ちなみに歯科のユニットはルール上7年です。
キャッシュアウトがないということは、その分は返済のための資金になるので、利益に足し戻すということをしています。
債務償還年数の計算方法
ここからは、具体的に債務償還年数を算出するワークショップをやっていきたいと思います。
お手元に自院の決算書か直前月次試算表をご用意ください。
なお、個人事業主(個人医院)と法人(医療法人)とで、基本的な考え方は同じなのですが、財務諸表の構成に若干差があるのでそれぞれ分けて解説していきます。
個人事業主(個人医院)の場合
もう一度算定式をおさらいしましょう。
債務償還年数=借入額÷(経常利益+減価償却費ー税金)
必要な書類はこのうち、借入額は貸借対照表に記載があります。

この貸借対照表は、通常は所得税の申告書の後ろに添付されていると思いますので、ぜひそのなかから探し当ててみてください。
借入額は赤枠の箇所に記載があります。
ちなみに、この借入金の額の中に親族からの借入など、厳密には返済する必要はあるものの、経営が苦しくなったときお願いすれば融通が効くような借入金があれば、これを抜いて計算するのもありです。
「否が応でも返済義務がある」借入金として、より実質的な負債をベースに計算することができるからです。
次に使うのは経常利益と減価償却費ですね。

所得税の青色申告決算書にある損益計算書には経常利益の欄がないので青枠で囲った「青色申告特別控除前の所得金額」を使用していただくと、近似値が算出できるかと思います。
減価償却費の記載位置は見てのとおりです。
最後、分母から差し引く税金は個人事業主の場合は所得税(復興特別所得税)の年額を使ってていただければと。

厳密には利益から社会保険料や住民税も払っているので、より精密に算定するなら分母から控除する必要がありますが、今回は説明の便宜上省略させていただきます。
法人(医療法人)の場合
法人成りしている場合も、法人税申告書に添付されている決算書から必要数値をピックアップしていただければと思います。
しつこいようですが、もう一度算式を記載しますね。
債務償還年数=借入額÷(経常利益+減価償却費ー税金)

法人の場合、借入額は短期と長期に分けて記載されていることがあるので、2つを合計して借入額を算定してください。
また、もし借入金のなかに役員やその家族から受けたいわゆる”身内からの借入”があれば、除いて計算していいかと思います。
先ほどと同様の理由で、もしものときにお願いすれば返済を止めてくれるなら、借入額に含めない方がより実質的な債務償還年数が算出できるからです。
経常利益と税金(法人の場合は法人税等)はこの青枠をピックアップしてみてください。
減価償却費は「販売費及び一般管理費」の明細のなかに記載されているので、その明細をみてください。

債務償還年数をどう評価するか
たとえば、
- 借入金の総額が1億円
- 年間経常利益が1,000万円
- 年間減価償却費が100万円
- 年間税額が300万円
の歯科医院があるとしましょう。
そうすると、債務償還年数は、
債務償還年数=1億円÷(1,000万円+100万円ー300万円)=12.5年
となります。
この場合、もし、現時点の借入の返済期限まで5年だとすると、今の利益では足りないということになります。
5年で返さなければいけないのに、12.5年かかるわけなので。
このときに融資を考えていたら、もう少し先延ばしにするか、利益改善の対策が必要になります。
先ほども触れましたが、歯科医院は追加融資の可能性を常に考えていかなければいけない事業形態なので、今借りて大丈夫なのかどうかは、最重要ポイントとして日々追っていっていただければと思います。
まとめ
ということで今日は歯科医院の経営者に知っておいてほしい、債務償還年数について話してきました。
以下にポイントをまとめます。
- 融資と縁を切っても切れない歯科医院は借金を返す力が資金繰りに直結する
- 指標となるのは債務償還年数
- 債務償還年数=借入額÷(経常利益+減価償却費ー税金)
- 返済期限までの残り年数と債務償還年数を比較して、利益が足りているか評価する
現状の借入の状況や、融資の検討について島田と一緒に考えたい、というご要望があればぜひこちらの単発相談をご活用くださいね。


