こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
今回は、税法や財務の話から少し離れて、歯科医院の経営スタイルについてお話ししていきます。
僕は歯科経営者ではないので、当事者としての意見をお伝えすることはできません。
でも、税理士として客観的な立場から気づいたことを、今日はそのままお伝えしていこうと思います。
テーマは「時代は組織化ではなく属人化」です。
少し時代の流れに逆らうような話かもしれません。でも、最後まで読んでいただけるとうれしいです。
最近の流行は「院長依存脱却」「組織化」「仕組み化」
最近、広告やコンサルタント会社が歯科医院に対してよく勧めているのが、組織化です。仕組み化という言葉もよく使われていますよね。
「院長依存からの脱却」というフレーズも、目にする機会が多いと思います。
そのために
- 経営理念を作って浸透させる
- 権限委譲のためのマニュアルを整備する
- 組織体制を整える
- スタッフとのコミュニケーションを増やす
- 人事評価制度を導入する
こういった施策を打って、院長先生が毎日臨床に立たなくても売り上げが立つような仕組みを整えていく。これが時代の流れとしてある傾向です。
僕はこの流れを真っ向から否定したいわけではありません。
「脱院長依存」を導入してうまく機能している医院さんはそれでいいと思います。経営方針として組織化を選び、それが機能しているのなら、それは正解です。
でももし、
- 組織化しようとしているけど売り上げが上がらない
- 仕組み化を進めているけど組織はそんなに変わっていない
- むしろ現場に任せたことで経営数値も組織体制も不安定になっている
こんな状況にあるのなら、ここから先の内容を読み進めていただければと思います。
よくあるケース
まずは実際に見てきたケースでいうと。
勤務医さんや歯科衛生士さんにも売り上げを持ってもらおうと、たくさんコミュニケーションを取ったり、研修制度を医院持ちにしたり、待遇を改善したり、歩合や手当などのインセンティブ制度を導入したり。
こういった取り組みをしてきた医院さんを見てきました。
でも、なかなかうまくいかないんです。
なぜか。
改めて言うまでもないですが、勤務医さんや歯科衛生士さんと、院長先生の立場や仕事への優先順位は、根本的に違うからです。
院長先生にとって医院は「自分の事業」ですが、勤務医さんやスタッフさんにとっては「働く場所」です。この前提が違う以上、同じ熱量を期待するのは難しい。
これはスタッフさんが悪いわけではありません。雇用されている側として、当たり前の感覚です。家族のこと、自分の生活、将来のキャリア。優先順位はそれぞれにありますよね。
この構造の違いを埋められるウルトラC的な解決策があればいいのですが、組織マネジメントに関する本やセミナーがこんなに乱立しているのに、根本解決ができたと言っている院長さんに少なくとも会ったことがありません。
(知らないだけでいらっしゃるのかもしれませんが。)
組織化しようとすればするほど、中にいる人たちが人間関係でトラブルを起こしたり、入退社を繰り返したり。そんな状況が続いているなら、院長先生が理想とする「院長依存脱却の組織化」は、なかなか難しいのではないかと、傍から見ていて感じます。
売り上げが伸びたのは「院長に依存する医院」
僕の経験則上、結局いちばん売り上げが上がり、利益も増えたのは、院長先生が毎日現場に立ち、コンサルテーションをし続け、治療をし続けた医院です。
院長先生個人が稼ぎ頭となる「院長依存タイプ」、そして院長の属人的なやり方やスタイル、経営方針がある医院のほうが、経営は安定します。
もちろん予防への取り組みはじめ、歯科衛生士さん主体の医院さんでは違う結果となったかもしれません。
でもこれは一つの医院だけの話ではなく。複数の医院で、同じような結果を見てきました。
考えてみれば当然のことなんです。
院長先生がいちばん臨床の技術があり、経営者としての視点も持っている。患者さんからの信頼も厚い。だから、院長先生が現場に立つほど、売り上げも利益も上がる。
患者さんも「院長先生に診てもらいたい」と思って来院されている方が多いはずです。特に自費診療の場合、その傾向は顕著です。患者さんが指名する院長先生が現場に立っているかどうかは、医院の売り上げに直結します。
特に資金繰りのことを考えると、即効性のある経営改善・財務改善ができるのは、院長先生が最前線で現場に立つ医院さんです。
組織化や仕組み化は、効果が出るまでに時間がかかります。経営理念の浸透も、人事評価制度の運用も、半年・1年という単位で取り組む話です。しかも、その途中で離職が続けばまた振り出しに戻ります。
でも、院長先生が一日多く臨床に立つ。これは今日からできて、今月の売り上げに直結します。スピード感がまったく違うんです。
特に、設備投資の借入返済が始まったばかりの開業数年目の医院さんや、業績が落ちて資金繰りに不安が出ている医院さんにとって、このスピード感は無視できません。組織化の効果が出るのを待っている余裕がない局面では、院長先生自身が稼働を増やすのが、いちばん確実な打ち手です。
「院長依存脱却」の目的は達成できているか
もちろん、組織化を目指す背景にはいろいろな思いがあると思います。
体力的な問題もあるでしょう。なるべく勤務医さんやスタッフさんに臨床を任せて、自分の負担を減らしたい。これは自然な気持ちだと思います。
歯科経営以外にやりたいことがある先生もいるでしょう。家族との時間を大切にしたい、勉強会や学会活動に時間を使いたい、副業を始めたい。それぞれの人生設計があります。
分院展開や規模拡大を目指している院長先生は、当然ながら組織化や仕組み化が必要です。
分院展開するとき、開設者は医療法人ですが、分院ごとに管理者を立てることになるのでその人材教育が必要ですし。
でも、そういう経営方針ではない先生は、何のために組織化(仕組み化)にこだわっているのか、その目的はちゃんと果たせているのか、自分に合った戦略なのかを今一度、確認してみていただきたいのです。
「楽ができそうだから」「時代の流れだから」「同期の先生がやっているから」
という理由で組織化を進めているなら、一度立ち止まってみてもいいのではないでしょうか。
僕が見ている限り、スタッフ教育や評価制度の運用というのは、想像以上にエネルギーを消耗します。それなら、得意な臨床に集中したほうが、経営者としても人としても健全な状態でいられると思うんです。
得意なことに集中するというのは経営効率の改善に直結します。
臨床でしっかり必要利益を上げ、苦手な部分は外注したり、お金で解決する。そのほうが結果的に医院全体のパフォーマンスは上がります。
「院長が倒れたとき」のリスクヘッジは別の方法で
この話をすると、必ず出てくるのが「もし院長先生が倒れたときのリスクヘッジはどうするのか」という論点です。
たしかに、院長依存型の医院では、院長先生が倒れたら売り上げが止まります。これは事実です。
でも、そのリスクヘッジは、組織化以外の方法でカバーできます。
具体的には、次の3つです。
2〜3ヶ月分の運転資金を確保しておく
万が一のときに、医院を一時的に止めても耐えられるだけの資金を手元に置いておく。これがいちばん現実的なリスクヘッジです。日々の利益から少しずつ積み立てていけば、決して不可能な金額ではありません。
必要なら融資の力を借りる
手元資金が不安なら、平常時に融資を受けて運転資金を厚くしておく。借りる力があるうちに借りておくのが、経営の鉄則です。業績が悪くなってからでは、銀行は貸してくれません。
保険でカバーする
院長先生に万が一のことがあったときの保障は、保険で備えられます。所得補償保険や就業不能保険など、用途に応じた保険商品があります。
保険は、こういった万が一のときのためのものです。
組織化や仕組み化で精神をすり減らすよりも、お金で解決できるならそのほうがよっぽど効率的なのではないか、と僕は思っています。
無理な組織化のせいでスタッフが定着せず、結果的に経営が不安定になっているケースのほうがリスクが高いとも感じています。
自分の経営スタイルに合った戦略を
今日お話ししたのは、個人医院が中心の島田のクライアントさんを見てきて思ったことです。なので、すべての歯科医院に当てはまる話ではないと思います。分院展開している医院さんや、規模拡大を目指している医院さんには、また別の戦略が必要です。
でも、この話をすると、実際に院長先生から共感をいただくことも多いんです。
経営に正解はありません。組織化が合う先生もいれば、属人化が合う先生もいる。大切なのは、流行に流されず、自分の経営スタイルに合った戦略を選ぶことだと思います。
「院長依存」という言葉はネガティブに使われがちですが、見方を変えれば「院長先生の魅力と技術で成り立っている医院」ということではないでしょうか。
一税理士の戯言ですが、これからの経営戦略を立てる上で、参考にしていただけるればと思います。。
PS:
そんな島田はというと、税理士業界も大規模事務所と個人事務所で二極化しているなか、あえて個人事務所体制をとっています。この理由はnoteで綴っているので読んでいただけると嬉しいです。



