こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
先日、夫婦で歯科開業をするケースについて、税務的なテクニックや制度の仕組みを中心にブログ記事を書きました。

今回はその続きとして、もう少し実務的かつ現実的な話を整理してきます。
数字の計画書を作る前に、夫婦で詰めておかなければならない論点があるという話です。
開業費の膨張と「ペアローン的」発想
最近、歯科の開業費が膨張しているという話はあちこちで言われています。ユニットをはじめとした医療機器の単価、医療材料、消耗品、建築費、内装費、すべてが数年前と比べて確実に上がっていますよね。
そこで、配偶者と一緒に開業することを考える院長先生も多いかと思います。
住宅ローンの世界で共働き夫婦がペアローンを組むのと同じ構図で、歯科開業においても「2馬力でいく」ことが、膨らんだ開業費に対する安心材料になりますから。
これは銀行側も同じ目線で見ています。
新規開業の融資相談に行くと、ほぼ確実に「奥様のご職業は?」と聞かれます。僕自身、支店長クラスの方から「共働きで配偶者も歯科医師の場合、どういう収益構造になって、どこに強みや差別化が出ますか?」といった質問を受けることがよくあります。
歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士といった国家資格を配偶者が持っていて、一緒に開業するとなると、銀行からの評価や審査の加点は高くなります。
念のため補足しておくと、院長先生のみの1馬力がダメだという話ではありません。
家族の問題や、配偶者さんが一緒に働く意志がないケースも少なからずありますし。
ただ、これだけ開業費が膨らんでいる今、夫婦開業という形が銀行評価のひとつの要素になっているのは事実としてお伝えします。
夫婦開業の現実的な事業計画
配偶者の働き方に影響する変数
ここまではいわば背景の話でしたが、ここからはいざ夫婦で開業するとなった場合の現実的な進め方をお話ししていきます。
たとえば院長先生が旦那様で、奥様が歯科医師あるいは歯科衛生士として一緒に働くパターンを想定してみます。このとき、奥様(開設者ではない側)が実際にどれだけ医院に入れるかは、お子さんの年齢や発達状況によって大きく変わります。
これによって、
- 診療時間の設計
- 必要なユニット数
- 採用するスタッフの人数と雇用形態
- 結果としての融資金額
が全部変わってきます。
奥様が資格を持っていても、当面はバックオフィスに徹するのであればユニットは不要です。一方で、診療やメンテナンスに入る予定なら、奥様用のユニットをはじめから組み込んでおく必要があります。
お子さんの年齢で計画はまったく変わる
ここがいちばんセンシティブで、いちばん重要なポイントです。
たとえば、お子さんが中学1年生なのか、小学1年生なのか、それとも2歳なのかで、奥様の働き方の前提はまったく違ってきます。
中学1年生であれば、開業初日からフルで働けるかもしれません。
小学1年生であれば、「2〜3年後にはがっつり入れるから、今のうちにユニットを入れておこう」という判断になります。
2歳であれば、「あと5年は本格的には入れない」という前提で計画を組まなければなりません。
ただ、ここでもうひとつ難しいのが、「5年後に入るから、5年後にユニットを買えばいい」とは言い切れないことです。
今の物価高を考えると、5年後に今と同じ値段でユニットを買える保証はありません。おそらく上がっています。そうなると、「今のうちに急患用として1台入れておいて、将来合流したタイミングで100%稼働させる」という判断も十分にあり得るわけです。
つまり、配偶者がいつ、どのくらいの頻度で医院に入るかというのは、ユニット数・診療時間・人員計画・融資金額のすべてに連動する、事業計画上のキーポイントになります。
配偶者を補填する人件費という論点
配偶者が時短勤務になるのであれば、その時間をどう埋めるかという問題が出てきます。
外部から非常勤の先生を呼ぶのか、歯科衛生士を1人多めに採用するのか、それとも開業初年度は規模を絞って院長1人で回すのか。選択肢はいくつもあって、どれを選ぶかで損益計算書の形がまったく変わります。
このあたりは、夫婦の働き方の前提が決まらないと、何ひとつ数字に落ちません。逆に言えば、前提さえ決まれば、人件費の総額、必要な売上、そこから逆算した1日あたりの来院数というふうに、計画は自然に組み上がっていきます。
ちなみに、奥様が歯科衛生士で、お子さんが小さいうちは週2〜3日の勤務、というケースもあります。このとき、足りない歯科衛生士業務を誰がカバーするかをはっきりさせておかないと、結局は院長先生のチェアタイムが他に取られて、本来の自費診療や難症例に時間を割けない、という本末転倒な状態になりがちです。
「配偶者が入る前提だから、歯科衛生士の採用は最小限でいい」と判断したのに、フタを開けてみたら配偶者が入れる日数が想定の半分で、ユニット稼働率が悪く収益も上がらないということは避けましょう。
開業準備中は家族の話は後回しになりがち
開業準備が始まると、どうしても集患、採用、資金調達、物件、内装といった「事業の話」の優先順位が上がります。気持ちはよくわかります。締切のあるタスクが次々に降ってきますから、目の前のものから片付けていくしかありません。
ただ、院長先生は事業の主であると同時に、一家の主でもあります。家族をどう養うか、ライフプランをどう描くかという役割があります。
ここを曖昧にしたまま開業してしまうと、後から「本当はもっと働けたのに、計画に入っていなかった」「もっと早く合流したかった」といった話が出てきて、夫婦の間で気まずくなるかもしれません。
逆に、早い段階から奥様の合流時期がはっきり決まっていれば、その時点を見越して、もっと積極的な経営判断や設備投資、資金繰り計画が立てられたはずです。
「3年後に配偶者が入るから、それまでは耐える期間と割り切って手堅くいく」「合流と同時にユニットを増設するから、その分の借入余力を最初から残しておく」といった具合に、戦略の幅が広がります。
最初に考えてほしい3つの問い
ですから、まずやってほしいのは家族会議です。
- いつから、どのくらいの時間、配偶者は医院に入れるか
- そのタイミングは、お子さんのライフイベント(入学、進学など)とどう連動するか
- 入れない期間は、何でその穴を埋めるか
このあたりの前提が固まっていないと、外部の人間が作る計画書はすべて「仮置き」になってしまいます。
仮置きの数字で銀行に持っていっても、当然ながら融資担当者から細かい質問が飛んできますし、その場で答えられないと印象がよくありません。逆に、夫婦で詰めた前提を背景に説明できると、同じ数字でも説得力がまったく違います。
僕自身、税理士という立場で開業前のサポートに入ることが多いのですが、節税の話はあくまで2の次、3の次です。
最初にやるべきは、どうやって利益を作っていくかという収益構造の土台づくりであり、その土台は単なる数字の計画書ではなく、夫婦間の役割分担と、それを補うスタッフ人件費とのバランスの上に成り立ちます。
これが今日いちばんお伝えしたかったことです。
数字を組み立てるのは税理士の仕事ですが、その手前にある「夫婦としての前提」を作るのは、ご夫婦にしかできませんから。
家族会議で前提を固めて、その内容を持って外部の協力者と計画を作っていく。この順番が逆になると、後から手戻りが発生したり、せっかくの計画が機能しなくなったりします。
夫婦開業を考えている先生は、ぜひ一度、ご家族との時間を取ってみてください。


