こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
ユニット1台、あるいは1〜2台で、スタッフを雇わず家族で経営していきたい。
そう考えていらっしゃる先生は確実に存在している実感があります。
この理由は明白で。
以前からThreadsでこんな趣旨の投稿をしているのですが、その都度通常より多くの反応をいただくからです。
今後歯科医院開業するなら「地方でひとり歯科」はひとつのモデルになってくると思います。
というのも、今の若い歯科医師さんの人生観と、歯科業界の課題との相性が良いからです。
・規模を求めず、届けたい医療を届けたい人に丁寧に提供したい。
・人材不足のリスクを最小限に抑えたい。
・スタッフマネジメントに追われず家族との時間を大切にしたい。これらが叶うのがひとり歯科です。 (歯科衛生士さんの点数がなかったり、オペ助手さんがいないというデメリットはあります)。
ただ、意外に融資審査が難関だったりします。
理由は規模が小さければ採算性がないと判断されチェア増設を条件に出されることもあるからです。
融資担当者を説得するために必要なのは根拠ある事業計画書。
キャッシュフローに無理がないことはもちろん、今後の歯科医療業界と日本の社会構造を踏まえてひとり歯科の優位性を示す必要があります。https://www.threads.com/@shimada.masaki_15/post/DPWJ1EcEo9W?xmt=AQG07p8PZIx5U5ORWlPpYpz-40wgPr-3nSQhn9pw5ltjN77slL_9qdIA4nn0f6t2_X2CyXN2&slof=1
その一方で、こうした構想を銀行や周囲に話すと、決まって返ってくる言葉があります。
「採算が合わないのでは」、「そんな医院は前例がない」、「勤務医のほうが稼げる」、「もっとユニットを増やして、スタッフも雇って、規模を大きくした方がいい」
税理士として資金計画や銀行交渉に関わる立場から言うと、銀行がこう考える気持ちも分かります。
融資審査というのは基本的に、「過去にうまくいった型」にどれだけ近いかで安全性を測る仕組みだからです。
ユニット3〜4台、スタッフ2〜3人、保険診療中心という開業モデルは、これまで多くの実績があり、銀行にとって評価しやすい型であるという事実は否定できません。
ただ、ミニマム開業を真剣に考えている先生には一度立ち止まって考えたいことがあります。
それは、この「これまでの型」自体が、以前ほど盤石ではなくなってきているという事実です。
銀行が前例を重視する理由
まず大前提としてミニマム開業に限らず、少し変わった歯科医院を開業したい先生は、銀行融資でつまずきます。
でも、銀行をはじめ金融機関にとって、前例のない開業モデルを評価しにくいのは当然のことです。
前例のないモデルは、良し悪し以前に「評価する材料がない」というだけで、融資審査において慎重にならざるを得ないからです。
つまり「前例がない」という指摘は、必ずしも「その計画がダメだから」という意味ではなく、「まだ評価する物差しがない」という意味であることが多いのです。
ここを区別して考えることが、まず大切だと思います。
裏を返せば、銀行に対して先生がやろうとしてることが社会的に素晴らしいことだと伝わっていても、説得力に欠けます。
その説得力を増すために必要なのは、自院の絶対評価ではなく相対評価で優位性を示すことです。
要は、自分の医院の素晴らしさだけを基準に審査してもらおうとするのではなく、既存モデルとの相対評価で優位性を示すことが有効な説得材料になります。
次からはミニマム開業を例にとり、具体的な相対評価の説得材料を例示していきます。
前例より優位性を示す材料
実は銀行には物差しがまだない、という状況は、物差しが見えていないだけです。
基本的に銀行はいろんな業種を対象にしているので、歯科業界の事情に詳しいとは限りません。
そこで、「一般的とされてきた開業モデル」自体に無視できないリスクが増えてきている、という物差しを具体的に提示してあげる必要があります。
いくつか具体例をみていきましょう。
人件費の高騰
一つ目は、人件費の高騰問題です。
歯科衛生士の就業人数は増えて来ているとはいえ、まだまだ売り手市場は解消しそうもありません。

国も令和8年度の診療報酬改定でベースアップ評価料の点数を大幅にアップしていますが、売り手市場が解消するくらいの財源を歯科医院にもたらすには至っていません。
僕の顧問先の医院を例にとっても、人件費並びに労働分配率(粗利に対する人件費の割合)は右肩上がりです。
スタッフを多く雇う経営モデルほど、この上昇の影響を大きく、継続的に受け続けることになります。
稼働率の変動リスク
二つ目は、歯科医院で働くスタッフの多くが女性であり、結婚・出産・育児といったライフイベントによって稼働率が左右されやすいという構造です。
日本社会の風潮的に、女性の産休と育休の権利が手厚く保護されてきている世の中だからこそ、女性雇用モデルのリスクを説明するのです。
この説明は定量的に伝えましょう。
ユニット3台稼働しているとして、欠員が一人出た時に、売上と利益にどれくらい影響が出るのか、採用費や教育費の相場がいくらくらいなのかを数字で示せるとベストです。
ちなみに、すでに開業されている院長先生方から日頃お話を伺っていると、経営上もっとも頭を悩ませているのは、売上そのものよりもスタッフマネジメントだという声を本当によく耳にします。
人間関係の問題であり、定量的に可視化するのは一工夫が必要ですが、スタッフマネジメントの悩みが原因で体調や精神を崩されてる先生がいらっしゃることは申し添えておきます。
設備機器や資材の物価高騰
三つ目はユニットをはじめとする医療機器の価格、内装・施工にかかる費用はここ数年で明らかに上がっているという事実です。
開業にかかる初期費用そのものが高騰しているのは明らかであり、その変遷もグラフ等で示してあげましょう。
合わせて、その高騰率が診療報酬改定でカバーできていないことも説得材料に用いてください。
ユニット数やスタッフ数を増やして「大きく始める」ことは、返済能力上リスクになり得ることを理解していただく必要があります。
補足:前例の見方を変える
こう整理すると、少し見方が変わってきます。
ミニマム開業や、家族・少人数での経営は、「前例がないから信用できない」ものではなく、これから先の歯科医院経営における現実的な選択肢の一つとして、むしろ合理性を持ち始めているのではないか、ということです。
スタッフを増やさず、ユニット数を絞るということは、裏を返せば、人件費や物価の高騰リスクとスタッフの稼働率変動リスクを、あらかじめ最小化した経営だとも言えます。
銀行が本来知りたいのは「規模の大きさ」ではなく「返済を続けられる安定性」です。
だとすれば、規模が小さいことは弱みとは限りません。
相対評価を肉付けする絶対評価
ここまで、銀行を納得させるためには絶対評価より相対評価、という話を伝えてきました。
とはいえ、「大きい医院はリスクが高い、小さい医院は安全だ」と主張するだけでは銀行は納得してくれません。この視点を、説得力のある事業計画へと変えるには、少なくとも次の3つの絶対評価が欠かせないと考えています。
マーケティングデータ
一つ目は、先生の医院の専門性とコンセプトが、患者さんに選ばれる客観的な根拠として示されていることです。
専門性においては、先生が解決できるお悩みを抱える患者さんが一定数存在すること、コンセプトにおいてはユニット1台にこだわるなら、他人と医院内で会いたくない患者さんのニーズが存在しているなど、ですね。
SNS等で事前にテストマーケティングしておくのもありでしょう。
要は、なぜその先生・そのコンセプトが選ばれるのかを、需要として説明できるデータにする必要があります。
実例
二つ目は、同じようなミニマム規模で、実際に経営が成立している医院の実例です。
前例がない、という指摘に対する一番の反証は、理屈だけでなく「すでにこういう形でうまくいっている医院がある」という事実です。
実際、ひとり歯科を運営されている先生はいらっしゃいます。
しかも都会も田舎も、どっちの実例もありますので、そういう先生にコンタクトをとって銀行からの「ツッコミ」を調査するのも有効です。
根拠ある事業計画
三つ目は、院長ご自身の生活費まで含めた事業計画のうえで、返済能力の高さが数字で証明されていることです。
規模が小さい分、売上の絶対額も小さくなりますが、支出と生活費のバランスまで踏み込んで設計されていれば、返済の安定性はむしろ説明しやすくなります。
以上、この3つは、それぞれ単体では成立しません。
専門性やコンセプトの根拠だけを語っても、銀行にとっては「良い先生」であることの証明にしかならず、返済能力の証明にはなりません。
逆に、生活費まで踏まえた精緻な数字だけを積み上げても、なぜその先生が患者さんに選ばれ続けるのかという裏付けがなければ、数字はただの願望に見えてしまいます。
マーケティング・実例・数字の3つが揃って初めて、「このモデルなら長期的に返済し続けられる」というひとつの物語になります。
まとめ
今回は、ミニマム開業で障壁になる銀行融資をクリアするための対策を書いてきました。
銀行の「前例がないから不安」という声に対して、「前例そのものが以前ほど盤石ではなくなっている」という事実を相対的に伝える。
さらに、自分の計画なら返済を続けられるという裏付けを、絶対評価として論理と数字の両面から示す。
これができれば、ミニマム開業は無謀な選択ではなく、これからの時代に合った堅実な選択として、銀行にも伝わる可能性は十分にあると考えています。
規模を大きくすることだけが、開業の正解ではありません。
もし、ユニット1〜2台で、家族や少人数での経営を考えている一方で、銀行交渉が不安な先生がいれば、まずは一度お話を伺えればと思います。


