こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
「最初の数ヶ月は赤字覚悟でやるしかない」
この考え方は一見覚悟が固まったように聞こえます。
開業直後は材料や消耗品を一気に仕入れたり、スタッフ採用や広告費などの固定費が重なりますが、患者数がすぐに増えるわけではありません。
赤字になること自体は仕方ない部分はあるかと思います。
どんなに入念な市場調査をしていても、開業してみないと患者層が分からないということは大いにありえますので。
ただ、このときの「赤字」が、気づけば「大赤字」になってしまっているケースがあります。
機器は良いものを、内装にも少し上乗せを、設備はできるだけ充実させたい、人件費も周りより上げたい。
そうした積み重ねが開業コストを押し上げ、気づいたら当初の計画より千万円単位で増えていた、という話は珍しくありません。
「赤字」の許容範囲が曖昧なのは非常に危険です。
その理由は自己破産するから、という単純な話ではない、という話をしていきます。
赤字を「乗り越えればOK」は短絡的な考え方
「最初の赤字は一時的なもの。乗り越えれば問題ない」という発想があります。
でも開業時の大きな赤字が経営の足かせになるのは開業時だけではありません。その後何年にもわたって影響を与え続けます。
なぜそう言えるのか。具体的に説明していきます。
将来の投資機会を失う
歯科医院の経営において、売上や利益を上げるためには、ある程度の投資が必要になる場面があります。
代表的なものが施設基準を取るための設備投資です。
こうした設備を入れることで算定できる診療報酬が増え、売上の底上げにつながります。
「それは開業してから少し経ってから考えればいい」と思う先生もいるかもしれません。
しかしこの投資ができるかどうかは、手元にキャッシュがあるかどうかにかかっています。
開業時に大きな赤字を抱えてしまうと、借入の返済も続きながら手元資金は少ない状態が続きます。
「入れたいけれど、今は資金がない」という状況が、1年、2年と続いてしまうのです。
そうすると、売上(診療報酬)の上昇も数年単位で遅れていきます。
自費診療の拡充を狙っているなら、そのための医療機器への投資も先延ばしになり、自費売上の増加も遅れていきます。
投資の対象は医療機器だけではないですよね、人材も同じです。
資金が枯渇していると、採用したくてもできない、採用コストを出せないという状況になります。
歯科衛生士さんが一人足りない。ユニットが1つ常に空きっぱなし。ユニット5台の医院さんなら単純にそれだけで売上は20%減です。
歯科助手さんや受付が足りなくても同じです。
結局は誰かがオペ助手や受付をする必要が出てくるのでユニットの空き枠が出てくるか、患者さん一人当たりの診療時間を短縮するなどの工夫が必要になってきます。
結果として、本来得られるはずだった売上や利益を、取りこぼし続けることになります。開業時の赤字は「最初の痛み」ではなく、その後の医業収入の機会損失につながるのです。
お金の不安は、家族にも伝わる
事業面だけではありません。
開業直後は、スタッフのマネジメント、患者さんへの対応、診療と経営の両立と、神経を使うことが山積みです。そこにお金の不安が重なると、ストレスはさらに増します。
そしてそのピリピリは、必ず家族に伝わります。
まず、勤務医時代の生活水準は、そう簡単には下げられません。
お子さんがいれば教育費もかかります。住宅ローンの返済もある。生活費はなかなか絞れないのが現実です。しかしその生活費の原資は、医院の利益です。医院が赤字であれば、院長報酬を低く抑えなければならなくなる場面もあります。
令和の時代は歯科医師不足がより顕著に進み、勤務医の給与水準も右肩上がりです。
開業したとはいえ、その生活に慣れているなか制限をかけるというのは心情的にもやりにくいかと思います。
なので実際は、貯金を切り崩して、それまでの生活を維持できるように工面することになるでしょう。
でも確実に影響を受けることがあります。
空気感です。
よっぽど夫婦ともに忍耐力(鈍感力)があれば別ですが、なければ赤字期間中の空気感は変わってしまいます。
もちろん軌道に乗ればピリピリした空気感はなくなると思います。
家族にとって良い経験値になって生きる力や結束力が強くなるでしょう。
でも人間関係が元に戻るかというと、その保証はないです。
一度傷ついた人間関係を元通りにするのは至難の業です。
生きる力や結束力が強くなって結果オーライならそれでいいですが、得られるものより失うもののほうが多ければネガティブな結果になります。
子どもの小さかった頃の時間は、お金が戻っても返ってきません。夫婦の関係にできた距離は、黒字になれば自動的に戻るものでもありません。
こちらの記事でもお伝えしていますが、利益をまず還元するのは家族ではないかと思っています。あくまで島田の価値観ですが。

だからこそ「大赤字覚悟で開業する」という前提で計画を立てることをおすすめしていません。
大切なのは「覚悟」より「底辺の把握」
では、どう考えればよいのか。
島田がお伝えしているのは、開業後半年の運転資金の推移を数字で把握するということです。
開業時の借入残高から、毎月どれだけ資金が出ていくのか。売上はどのように増えていくのか。その結果として、手元の資金がいつ頃、どのくらいの水準まで下がるのか。
この「底辺」をあらかじめ数字で確認しておきましょう。
やり方は次のとおり。
- 開業資金(借入+自己資金)から開業までに支払う開業費(医療機器、材料費、建設費(内装費)等)を差し引き、開業後の運転資金を求める
- 毎月の収支計画を立てる(生活費まで考慮して)
- ❷において❶から減っていく運転資金の推移を確認する(Excelで月次の収支を並べる)
その結果、たとえば「開業から6ヶ月後に手元資金が500万円まで減る見込みだが、そこから患者数が増えていく計画だから許容範囲」というように把握しておくことが重要です。
(そもそも500万円が固定費の余力として十分かは個別に判断する必要があります)。
反対に、収支計画を作ってみたら「開業4ヶ月後に運転資金が底をつく」という結果になったとします。そうであれば、開業前に手を打てます。
借入額を増やして運転資金を厚くする、設備投資の一部を後回しにする、内装のグレードを落とす。こうした修正が、数字を把握しているからこそできるのです。
「大赤字になるかもしれない」という感覚的な覚悟と、「半年後に底を迎えて、そこから回復していく計画」という数字に基づいた把握は、まったく別物です。
許容できる赤字の水準は将来の計画で決まる
では、いくらのキャッシュフローの赤字なら許容できるのか。
これは感覚で決めるものではなく、別途明確にする必要があります。
そのために必要なのが、3年後や5年後の事業計画です。
開業後の経営の方向性は、先生によって大きく異なります。
ユニットを増設して診療規模を拡大していくのか。分院展開を視野に入れているのか。規模は維持しながら自費診療の比率を上げていくのか。そして自費率を上げるとしても、既存の患者さんへのアプローチなのか、新規患者さんをターゲットにするのか。
この方向性によって、必要な医療機器も、採用すべき人材も、そして建物や内装への投資計画もまったく変わってきます。
たとえば数年後に自費専門のフロアを作りたいなら、内装の仕様を最初から考えておく必要があるかもしれません。
分院展開を考えているなら、不動産の取得やM&Aを視野に入れる必要があります。
逆に規模拡大を考えていないなら、開業時にしっかり設備を整えておくことが後々の安定につながる場合もあります。
遠い先の未来の計画は不確実ですし、開業してみて初めてわかることも多いかと思います。
完璧な計画を立てる必要はありません。
ただ、「数年後なんとなくこういう方向に進みたい」というイメージを開業時に持っておくだけで、そのときにいくら手元にお金が必要なのかは把握できます。
たとえば3年後に自己負担で500万円のユニット増設をしようとしている場合、1年目に赤字800万円で、当初準備していた運転資金が1,000万円から200万円減ったとしても、2年目と3年目に、150万円ずつ(毎月約13万円)計300万円の積立と運転資金の確保ができる収支計画を組めば実現はできます。
逆算してキャッシュフローのマイナスの許容範囲を探りましょう。
まとめ
「大赤字覚悟」という考え方が危険な理由は、大きく2つです。
ひとつは、開業時の大きな赤字が将来の投資機会を奪うということ。施設基準のための設備投資、スタッフの賃上げ、採用。手元資金がなければ、必要なタイミングで動けません。開業時の赤字は一時的な痛みではなく、将来の利益にも影響します。
もうひとつは、お金の不安が空気感として間接的に家族を含めた生活全体に影響するということです。
大切なのは大赤字の覚悟の大きさではなく、運転資金がいつ底を迎えるか、その水準は許容できるかを収支計画の段階で数字として把握しておくことです。
赤字は赤字でも、次に活きる赤字計画にしましょう。


