歯科開業「1年で75%黒字化」は本当?個人医院の“黒字”の読み方

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はじめに:「開業1年以内に75%が黒字化」をどう読むか

先日、とある歯科経営に関するレポートで、「開業した歯科医院の75%が1年以内に黒字化している」という内容を目にしました。

みなさんはこの数字をみて、どんな感想をお持ちですか?

75%「も」黒字なのか、75%「しか」黒字ではないのか、どっちの捉え方ですかね。

ただ、いずれにしろ黒字の解釈に関しては注意していただきたいことがあります。

というのも、個人開業の場合、「黒字」が何を指しているかで、この75%の意味は大きく変わるからです。

決算書の上では黒字。でも、借入の返済と院長先生の生活費まで含めると、手元のお金は減っている。

個人の歯科医院では、こういうケースは珍しくありません。

この記事では、個人開業の先生が「黒字」をどう捉えるべきかを、歯科専門の税理士の立場から整理します。

「黒字」の意味

「黒字」は返済前の金額

一般的に「黒字」と言うとき、多くは損益計算書の利益がプラスかどうかを指しています。

売上から、材料費・技工料といった診療原価(基本的に患者数に比例して増減する費用)と、人件費・家賃・研修費・減価償却費などの固定経費を引いて、プラスなら黒字です。

ここで押さえておきたいのは、この計算に入らないお金があることです。

代表的なのが、借入金の元金返済です。

元金の返済は経費になりません。

会計上は税金を払ったあとの利益の中から返していく構造になっています。

2026年現在、歯科医院の開業では、ユニットやCT、内装工事などで、数千万円後半から億単位の借入をするのが一般的です。

毎月の返済は元金だけでだいたい50万円〜90万円でしょうか。

その元金返済が、毎月の損益には一切出てきません。

利益がプラスでも、その利益で返済をまかなえなければ、お金は減っていきます。

「黒字」は院長報酬を払う前の金額

もう一つ、個人開業ならではのポイントがあります。

個人医院には、院長先生の給料という経費がありません。

医療法人であれば、院長先生に支払う役員報酬は経費です。つまり法人の「黒字」は、院長先生に報酬を払ったあとの利益です。

一方、個人医院の利益は、院長先生に報酬を払う前の金額です。

言い換えると、個人医院の利益は「院長先生の取り分」そのものです。

つまり、ここまでの説明を踏まえると、この利益の中から、次のものをすべて支払うことになります。

  • 借入金の元金返済
  • 所得税・住民税
  • 歯科医師国民健康保険料・国民年金保険料などの社会保険料
  • ご家族の生活費、住宅ローン、教育費など

同じ「黒字」という言葉でも、法人と個人では指しているものがまったく違います。

個人医院の「黒字」は、まだスタートラインに立っただけ。僕はそう考えています。

【図解】黒字シミュレーション

説明のために、以下を前提として仮の数字で見てみます。

  • 1年間の利益:600万円
  • 減価償却費:400万円(過去に買った機器の経費なので、お金が出ていくわけではない)※
  • 借入金の元金返済:年500万円
  • 税金・社会保険料:150万円
  • ご家族の生活費:600万円(月50万円)

※減価償却費の性質については、こちらの記事を参照してください。

この前提で「いくらお金が増減するか」を検討するためには、まず利益600万円に、お金が出ていかない減価償却費400万円を足します。これで1,000万円です。

ここから元金返済500万円を引くと、500万円が残ります。

さらに税金・社会保険料150万円を引くと、350万円。

最後に生活費600万円を引くと、マイナス250万円です。

このとき、決算書の上では、600万円の黒字です。

でも、通帳のお金は1年で250万円減っています。

レポートの集計では「黒字化した医院」に数えられていても、現実は「お金が減っている」医院になるわけです。

キャッシュフロー分析のポイント

院長報酬

この計算で、いちばん読みにくいのが生活費です。

月30万円で暮らせる先生もいれば、住宅ローンや教育費を含めて月100万円が必要な先生もいます。

開業前から住宅ローンを抱えている。お子さんが私立に通っている。ご実家への仕送りがある。

院長先生が「自分の報酬」としていくら必要かは、本当に人それぞれです。

さらに、奥様に青色事業専従者給与を払っているかどうかでも、利益の見え方は変わります。

専従者給与は経費になるので、払っている分だけ利益は小さく見えます。

つまり、同じ利益600万円でも、ある先生にとっては十分で、別の先生にとっては全く足りないということになります。

個人医院の「黒字かどうか」は、医院の数字だけでは決まりません。
院長先生の家計まで含めて、はじめて判断できます。

だから僕は、個人開業の先生には「事業のお金」と「家のお金」を分けて管理したうえで、両方をセットで見ることをおすすめしています。

返済の「据置期間」

開業1年目の数字を見るときには、もう一つ注意点があります。

開業資金の融資では、元金の返済が始まるまでの「据置期間」が設けられることが多いです。

据置期間中は、利息だけを支払います。元金の返済がないので、1年目はお金が残りやすく見えます。

ところが、据置期間が終わると元金の返済が始まります。

1年目は回っていたのに、2年目から急に苦しくなる。その理由の一つがここにあります。

「1年以内に黒字化」という数字だけでは、返済が始まったあとにお金が残る財務体質になっているかは全く分からないのです。

目指すべき「3段階の黒字」

では、個人開業の先生はどう数字を見ればいいのか。

僕は、次の3段階で確認することをおすすめしています。

① 損益の黒字

損益計算書上の損益がプラスかどうか。一般的に会計上の「黒字」と呼ばれるのはここです。

本業である医業から発生した収入と支出の一定期間の成績を示しています。

ちなみに、損益計算書は月次試算表にも決算書にも必ずあるのでチェックしてみてください。

② 返済後の黒字

次に、損益に減価償却費を足して、元金返済を引いてもプラスになる利益目標を掲げます。

先ほども言及した通り、開業後1年は返済が据え置かれている「据え置き期間」なので、開業後1年以内に単月で返済を賄えるぐらいの利益を出すことを目指すというのは、一つの目安になります。

③ 生活費まで含めた黒字

最終的には税金・社会保険料と、ご家族の生活費を引いてもプラスになる利益を確保しましょう。

個人医院で本当に大事なのは、③です。

ここがプラスになって、はじめて「医院も家計も回っている」と言えます。

先ほどの例で逆算すると、③の黒字に必要なのは、元金返済500万円、税金・社会保険料150万円、生活費600万円の合計1,250万円です。

キャッシュフローベースでプラスになる利益を確保したい場合、減価償却費400万円を差し引くと、必要な利益は約850万円になります。

「黒字になったかどうか」ではなく、「自分にとっての黒字ラインはいくらか」。

個人開業の先生には、この視点で月次や決算の数字をみていただきたいと思っています。

75%という数字に対する一喜一憂は不要

誤解のないように書いておきます。

「75%が1年以内に黒字化」という数字そのものが、間違っているわけではないと思います。

損益の上で黒字になる医院が多いのは、事実なのでしょう。

ただ、その「黒字」が②でも黒字なのか、③でも黒字なのか。
ここを確かめずに数字だけを受け取って一喜一憂するのは無駄なのでやめておきましょう。

「75%に入れば安心」ではありません。

何度でもいいますが、利益から出ていくお金の変数は医院によってまちまちです。

そもそも、医療に対する考え方や、診療スタイル、診療メニューは、それぞれの医院によって違うはずです。

そして、それに応じた事業計画を立てているはずですし、開業時の運転資金は、それを見越して加味した上での借り入れになっているはずです。

ですから、利益目標は他医院との相対評価ではなく、自院だけの絶対評価で良し悪しを測ることをおすすめします。

まとめ

最後に、本記事の内容をまとめます。

  • 一般的な「黒字」は損益の話で、借入の元金返済は含まれていない
  • 個人医院の利益は、院長先生の報酬を払う前の金額
  • 利益から、返済・税金・社会保険料・生活費を払って、はじめて家計まで回る
  • 生活費は先生ごとに違うので、「黒字かどうか」も先生ごとに違う
  • 「75%が1年以内に黒字化」に一喜一憂しない

自分の場合はいくらになるのか、整理してみたい先生は、LINEから気軽に声をかけてください。

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