利益が出ても住宅ローンは繰り上げ返済するな
こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
今日のテーマは、歯科開業医と住宅ローンです。
僕のお客さんは30代中盤の先生が多くて、ちょうど住宅ローンを借りた直後、あるいはこれから借りる予定、という方がかなりの割合を占めます。
なので今回は、そういう先生に向けて書きます。
すでに住宅ローンの残債を抱えながら開業した方、あるいは近い将来そうなる予定の方に、ぜひ読んでもらいたいです。
論点は一つです。住宅ローンを持ちながら開業したあと、そのローンとどう付き合っていけばいいのか。
家計の重荷と感じるか、経営の味方と捉えるかで、その後の判断は大きく変わってきます。
最初に、この記事でいちばん覚えていただきたいことをお伝えします。
開業後に利益が溜まってきても、その内部留保を使って住宅ローンを繰り上げ返済するのはご法度です。
確かに、繰り上げ返済すると支払利息は減りますよ。減りますが、個人開業医だとそれ以上のデメリットのほうが多いです。
「ご法度」というのは少し強い言葉ですが、それくらい強く言いたいテーマだということです。理由を3つに分けてお話しします。
理由1:住宅ローンの低金利は最強の武器だから
まず一つ目。住宅ローンの繰り上げ返済をすると、住宅ローンという低金利の武器を自ら手放すことになるからです。
事業融資と比べると、住宅ローンの金利はまだまだ低いです。半分以下、と言ってもいい水準です。これだけ低い金利で、しかも長期で、まとまった金額を借りられる仕組みは、住宅ローン以外にはまずありません。
ここで考えてほしいのは、繰り上げ返済をした「あと」のことです。
利益が出たからといって住宅ローンを返済して、その後にユニットの更新が必要になったり、分院展開で内装費が必要になったり、レントゲンやCTの入れ替えが必要になったらどうなるでしょうか。
当然、追加で事業融資を受けることになります。そして、その金利は住宅ローンよりはるかに高いです。
つまり、低金利の住宅ローンをわざわざ自分の手で消して、その代わりに高金利の事業融資を引き直す、という動きをしてしまうわけです。これはとてももったいないことです。
しかも、今は資材の高騰や人件費の高騰がずっと続いています。今後も続くと考えるのが自然です。そう考えると、運転資金や設備資金の追加融資が必要になる可能性は、決して低くありません。むしろ高いと踏んだほうがいいです。
よっぽどお金が余って余って困るレベルであれば、住宅ローンの繰り上げ返済を検討する余地もあります。
でも、そういう開業医は実際にはほとんど見ません。30代で開業した先生であれば、これから20年も30年も経営が続きます。その長い時間の中で、お金が必要になる場面はいくらでも出てきます。
事業資金として残しておいた利益を、わざわざ家計の住宅ローン返済に充ててしまうのは、本当にもったいないのです。
家計の負担を減らしたい気持ちはわかりますが、下手をすると医院経営を阻害する行為になってしまいます。
理由2:銀行からの評価が上がるから
二つ目の理由は、利益として留保された事業資金をたくさん持っていればいるほど、今後の経営の中で追加の融資を受けやすくなるからです。
どういうことか。手元資金がある、つまり自己資金が厚いということは、銀行から見た評価が高くなる、ということです。
銀行は、お金に困っている人にはお金を貸したくありません。逆に、お金を持っている人にこそ貸したい。
なぜなら銀行は返済能力を見るからです。
だから、手元にしっかり事業資金が残っている開業医ほど、いざというときに追加融資を引きやすくなりますし、金利交渉も有利に進められます。
理由1でもお話ししたとおり、開業後は追加融資が必要になる可能性が高いです。だからこそ、「いつでも借りられる状態」を維持しておくことが大事になります。言い換えると、銀行が「貸したい」と思える財務状態を整えておく、ということです。
そのためには、事業資金をしっかり蓄えておく必要があります。せっかく溜まった利益を住宅ローンの繰り上げ返済に使ってしまうと、この「銀行から見た自分の評価」を自分で下げてしまうことになります。
本来なら有利な条件で追加融資を引けたはずなのに、手元現金が薄くなったせいで条件が悪くなる、という展開は十分にあり得ます。
決算書の現預金の数字は、銀行が真っ先に見るポイントですから。
理由3:団体信用生命保険は強力な保障だから
最後、三つ目の理由です。住宅ローンに紐づいている団体信用生命保険、いわゆる団信は、開業医にとってとても心強い保障です。
開業すると基本的に個人事業主ですし、法人化していたとしても、実質的には院長一人で回している一人医師医療法人の医院がほとんどです(医療法人の約8割にのぼるという統計があります)。
つまり、自分が倒れたりそれと同等の重い病気をしてしまったら、医院の収入はストップします。スタッフの給料も、家族の生活費も、住宅ローンの返済も、すべて支払いが止まってしまいます。
このうちスタッフの給料をはじめとした事業経費は運転資金を蓄えておけば数ヶ月分はカバーできます。
自己資金が足りなければ融資で借りておくことも有効な予防策です。
保険もありますね。
いっぽうで、住宅ローンに紐づいている団体信用生命保険は、住宅ローンに対して万が一の事態が起こったときに弁済してくれる制度です。
住宅ローンを借りているからこそ、ある意味セットでついてきます。
繰り上げ返済を進めるということは、この保障の効果も自分で削っていくことになります。残債が減れば減るほど、団信で守られる金額も減っていくことになるからです。
住宅ローンを返済している期間中は、万が一のことがあれば住宅ローンが消える。家族に家を残せる。これを自分でいちから生命保険に入って同じ保障を作ろうとすると、それなりにコストがかかります。月々の保険料という形で、家計から確実にお金が出ていきます。
つまり、事業融資はスタッフを守り、住宅ローンは家族を守る手段であるといえます。
開業して、スタッフを雇って、家族を背負って働く立場になると、「自分に何かあったときにどうなるか」という視点は本当に大事になってきます。特に30代で開業して、お子さんがまだ小さい先生にとっては、なおさら重い問題です。
住宅ローンを残しておくこと自体が、その懸念材料を和らげる緩衝材になりえます。
安心して働ける状態をつくる、という意味でも、住宅ローンは無理に減らさないほうがいいです。
まとめ:住宅ローンは医院経営の味方
長くなったので整理します。
開業医が利益から住宅ローンを繰り上げ返済するのは、僕はお勧めしません。
むしろ経営の味方です。
理由は3つあって、低金利の武器を失うこと、銀行からの評価を下げてしまうこと、団信という保障を削ってしまうこと。
釈迦に説法だと思いますが、開業後の経営は、思った以上にお金が必要になります。設備の更新、人件費の上昇、物価の上昇、分院展開。どこでお金が必要になっても不思議ではありません。
そのときに、手元の事業資金を厚く持っている開業医ほど、選択肢が広がります。逆に、繰り上げ返済で手元が薄くなっていると、本来やりたかった投資ができなかったり、不利な条件で借りざるを得なかったりします。
利益が出てきたら、まずは事業の中に残してください。もしくは個人医院なら余剰資金を引き出してNISA等で運用するのもいいでしょう。
家計と事業のお金の特徴をきちんと整理して、どちらにどれだけ残すべきかを考えましょう。


