こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
今日のテーマは事業承継です。
親の医院を継ぐ以外の選択肢と、そのメリットを話していきます。
というのも、最近拝読したこちらの本に非常に共感できる点があったからです。
税理士の森川敏行先生が出版された本ですが、事業承継に関する書籍というと、事業承継税制や認定医療法人制度といった、いわゆる”税法のルール説明”が中心になりがちでした。
ところがこの本は、そういった制度論をほとんど扱っていません。
歯科医院の出口戦略について、非常にフラットな目線で書かれています。
ということで、共感できたポイントと、なぜそう思うのかという理由を、僕の実体験ベースでお伝えしていきます。
「親子承継」のリアル
僕のもとには、子(いわゆる後継者さん)からの相談を多くいただいています。
その経験から、はっきり言えることがあります。
親子が同じ医院で一緒に働き、親の引退と同時に子へ承継する——この承継の王道パターンは非常に難易度が高いということです。正直なところ、想定範囲内のストレスやトラブルで承継できたケースは一件も見たことがありません。
なぜうまくいかないのか。その理由はシンプルです。
① 価値観のギャップは埋められない
これは多くの方が気づいているはずですが、親世代と子世代では、医院経営に対する考え方が根本的に違います。
診療方針、スタッフや患者さんへの接し方、設備投資の感覚——あらゆる場面で価値観のずれが生じます。
これは努力や話し合いで埋まるものではなく、時代と経験が違う以上、ギャップが生じてしまうのは避けられません。
② 情報のギャップは埋められない
価値観の他にも、親と子では医院経営に関する情報の量と質のギャップがあります。
まず、医院の財務諸表を全開示してもらえないなら、医院の必要利益は分かりませんよね。
だから子がもっと売上が必要なんじゃないかと思ってもそうではない可能性もあるし、本当に喫緊の課題である可能性もあります。
それが分からないまま子が親に何か提案し続けても、空回りするだけです。
あと、院長さんがまだ伝えていない収入源があることだってあります。
不動産や株などがそうですね。
逆に負債や支払いが隠されている可能性もあります。
これだけお金の共通認識を作るのはハードルが高いことなのです。
③ 長年のスタッフや配偶者との関係
親の医院には、院長さん(親)と長年の信頼関係を築いてきたスタッフがいます。また、院長さんの配偶者が医院運営に深く関わっているケースも少なくありません。
子の立場からすると、そうした”既存の人間関係”の中に後から入っていくことになります。意思疎通がうまくできない、自分のやり方を通せない、という状況は容易に想像できます。
実際に私が見てきた中で、こうした人間関係のこじれが経営判断の足を引っ張るケースは、枚挙にいとまがありません。
結論—「承継」の本質は、場所じゃない
冒頭の本で僕がもっとも共感したのが、「親子承継においては、子は最初から親の医院に入るのではなく、2km圏内でテナント開業を勧める」という提言です。
同時に、「何も親の医院を引き継ぐことだけが事業承継ではない」という趣旨の発言もされています。
歯科医師の資格を持ち、経営者として医業を営むこと——それ自体が、親のレガシーを引き継ぐこと。
そういう考え方もありではないか、と思うのです。
実際、僕自身も親が同じ士業の経営者でしたが、親の事務所を継ぐことなく、別の地で開業しています。
距離は離れていますが、親との関係は良好です(……だと思っています)。
また、以前に支援させていただいた歯科医師の先生で、親の医院とはまったく別の地でテナント開業されたケースがありました。
人間関係が経営判断の足を引っ張ることはなく、清々しい気持ちで経営されています。その分、後戻りできない責任は重いですが、もっとも底力が発揮できる環境でもあります。
子がテナント開業するメリット
では、子が先に独立してテナント開業することには、具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。
① 若いうちに融資を組める
これは非常に大きいです。
親が引退するタイミングを待っていると、子は40代後半、下手すると50代になっています。
そこから15年から20年の融資を組むのは、精神的にも現実的にも厳しいです。金融機関からの評価も、一般的には若い年齢のほうが有利です。
30代のうちに融資を組んで開業すれば、返済が終わるころにはまだ50代です。
出口戦略に焦ることなく、拡大や分院展開の選択にも余裕が生まれます。
② 子どもが小さいうちに開業しておくとお金に余裕が出る
開業して軌道に乗る(生活費の確保まで安定する状態になる)までには、一般的に数年かかります。仮に35歳で開業すれば、40代に入る頃には経営が安定してくる計算です。
未就学児の育児なんてほとんどお金がかかりません。
いっぽうで子どもの教育費がもっともかかるのは、中学〜大学の時期になります。
その頃に医院が軌道に乗っていれば、教育費の負担を安心して受け止められます。親の引退を待って40代で開業していたら、医院の立ち上げ期と教育費の支出時期が重なってしまいかねません。
③ 戸建開業では建物が無駄になるリスクがある
もし子が最初から戸建て(自己所有の建物)で開業した場合、いざ親の医院を引き継ぐことになると、自分の医院は移転せざるを得ません。せっかく建てた建物が使えなくなってしまうのです。
子が建てた医院に吸収する場合であっても、残った旧医院の処分と管理にお金がかかります。
テナント開業であれば、退去すれば済む話です。
最初からテナントで開業しておくことで、こうしたリスクを回避できます。
④ 親の引退後の選択肢が広がる
子が先に独立していれば、親の医院の出口は自由に選べます。
- 子の分院として引き継ぐ(医療法人化が必要)
- 第三者に譲渡する(M&A)
- そのまま廃業する
どの選択肢も、フラットに検討できます。
いっぽうで、子が最初から親の医院に入って”そこで完結する前提”で動いてしまうと、親の医院を継ぐ以外の選択肢が事実上なくなります。途中で親子関係がうまくいかなくなったとき、逃げ場がない状況は最悪です。
医院承継はいろんな選択肢を
ここまで読んでいただくと、承継を控えている歯科医師さんにテナント開業を勧めるような記事になってしまったかと思います。
でも本当に伝えたいのは、状況に応じていろんな選択肢があっていい、ということです。
親子の軋轢がなく医院承継を進められる医院もあるでしょう。その場合は、今日の話にこだわる必要はありません。
ただ覚えておいて欲しいことがあります。
先生が目一杯働けるゴールデンタイムは、今しかありません。体力も、融資の借りやすさも、経営を軌道に乗せるまでの年数も——すべては、今この時期がもっとも恵まれています。
2026年も上半期が終わります。
人生計画を考える際に、ひとつ参考にしていただければ嬉しいです。


