歯科院長が注意すべき3つの年収の壁|令和8年税制改正を踏まえて

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こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。

「扶養の範囲内で働きたい」——歯科衛生士さんや歯科助手さんの求人面接でよく聞く希望です。

院長さんとしてはありがたい反面、いざシフトを組もうとすると、時給設定や勤務時間の調整に頭を悩ませる原因にもなります。

しかも令和8年度税制改正で「年収の壁」が大きく引き上げられました。

一昔前までは、「103万円の壁」が有名でしたが、最近は改正が進みどんどんと壁が引き上げられています。

そして令和8年度もまた新しい壁ができました。

年収の壁を意識して時給と勤務時間を調整してきた院長さんにとっては、賃金規定を見直すよいタイミングかもしれません。

新人を採用するときの初期設計を間違えると、年末に「思ったより働けない」「シフトが回らない」となりかねませんので

実際、歯科医院にとってパート職員さんの存在は欠かせません。

常勤スタッフだけで医院を回すのは人件費的にも厳しく、午前や夕方のピーク時間帯をパートさんでカバーすること多いからです。

とくに歯科衛生士さんは結婚・出産を機に常勤からパートへ移行する方が多く、扶養内勤務を希望される割合も高い職種です。歯科助手さんも同様で、子育てとの両立を理由に扶養内パートを希望される方が多い印象です。

この記事では令和8年度税制改正のポイントを確認した上で、時給別のケースでパート求人がどう変わるかをシミュレーションします。

目次

令和8年度税制改正で「年収の壁」はこう変わる

ここから具体的な制度の話に入ります。パート雇用に関係する改正ポイントは次の2点です。

① 本人に所得税がかからないライン:178万円

基礎控除と給与所得控除の最低保障額が大幅に引き上げられた結果、給与収入178万円までは本人に所得税がかからなくなりました。従来の「103万円の壁」が75万円上昇したことになります。

求職者さんが「税金がかからない範囲で」と希望されている場合、所得税の観点で言えば178万円までは課税されないということです。

もっとも改正後の水準は令和9年分まで、です。
詳細は割愛しますが、令和10年分からはまた異なる水準になることにご留意ください。

また、所得税と一緒に個人に課税される住民税は別の取り扱いになっています。
具体的には給与所得控除の引き上げはあるものの、基礎控除は引き上げがないのです。

なので所得税は税金がゼロでも、住民税は発生するという事態は起きやすくなったということも覚えておいてください。

② 配偶者控除を満額使えるライン:169万円

配偶者控除・配偶者特別控除は、雇用したパートさんの配偶者が受けられる控除です。

この控除額はパートさんの給与収入によって変わってきます。

最大で38万円の控除が使えますが、令和8年度税制改正以後はパートさんの給与収入が169万円以下だと満額適用できるようになりました。

169万円を超えると徐々にパートさんの配偶者が受けられる控除額が減っていき、207万円を超えるとゼロになります。

なので、「税制上の旦那の扶養の範囲内で働きたい」という要望があったら、まずは169万円を意識してください。

③ 社会保険の扶養から外れるライン:130万円

ここまで所得税の話をしてきましたが、実はパートさんが本当に気にしているのは税金よりも社会保険の方だったりします。

パートさんの年収が130万円を超えると、配偶者(旦那さん)の社会保険の扶養から外れるからです。

いわゆる第3号被保険者ではなくなるので、自分で国民年金と国民健康保険に加入する義務が発生する、ということですね。

この負担額がなかなか大きくて、ざっくり試算すると次のとおりです。

・国民年金:年20.4万円(月額約17,000円)
・国民健康保険:年収130万円なら年10万円前後


合計でおよそ年30万円の自己負担が発生します。

年収130万円を1万円超えただけで、家計の手取りが30万円ガクッと落ちる計算です。

しかも厄介なのは、この30万円を取り戻すには年収160万円程度まで働かないといけないということ。つまり年収130万〜160万円のゾーンは、働けば働くほど手取りが減る、いわゆる「働き損ゾーン」になってしまいます。

なので所得税の壁が169万円・178万円に上がったとはいえ、求職者さんに「扶養の範囲内で」と言われた場合、現実的にはまず130万円を意識した設計をおすすめしています

なお、社会保険の壁は、今後段階的になくなっていく予定です。

ただ、社会保険に加入する従業員が増えると、医院の人件費負担も増えるので、事業計画ではこの点も見据える必要があります。

時給1,500円 vs 2,000円:勤務枠シミュレーション

年収130万円を上限とした場合、時給によって勤務時間と医院の運用がどう変わるのかを試算してみましょう。

項目時給1,500円時給2,000円
年間勤務時間約866時間約650時間△216時間
月間勤務時間約72時間約54時間△18時間
年間人件費130万円130万円同額

時給1,500円なら週4日勤務で1日4時間強、週5日勤務なら1日3.5時間ほど。午前または午後の片方をしっかりカバーしてもらえるイメージです。アシスタント業務や歯科衛生士業務のいずれでも、まとまった時間を確保できる働き方です。

時給2,000円なら週4日勤務で1日3時間強、週5日勤務だと1日2.5時間。午前のみ、あるいは午後の前半だけの短時間勤務に近い形になります。歯科衛生士さんとして経験豊富な方を高時給で迎えたい場合、必然的にこの働き方になるということです。

人件費はどちらも年130万円で同額ですが、提供いただける「労働時間」は年間216時間(月18時間)も違います。これは午前診療4時間×54日分に相当する差で、医院のユニット稼働率に直結する規模感です。歯科衛生士業務に換算すると、SRPやメインテナンスのアポイントを年間で百枠分以上失う計算になります。

時給アップはスタッフ満足度や採用力向上には間違いなくつながります。ただし扶養内パートさんの勤務時間は確実に減るため、減った分を別のパートさんで埋めるのか、常勤スタッフでカバーするのかを同時に設計しておかないと、ユニットが空いて自費・保険ともに売上が落ちる事態になりかねません。

無理に採用しないなら、ユニット稼働率が低下する水準がキャッシュフローに影響がないか確認することをおすすめします。

まとめ:求人前にやっておきたい3つの整理

ここまで見てきたように、「扶養の範囲内で働きたい」というパートさんの希望ひとつをとっても、その背景には所得税・住民税・社会保険という3つの異なる壁が絡んでいます。

しかもそれぞれの壁は性質が違います。所得税の壁はゆるやかな坂で、超えても家計への影響は小さい。
これに対して社会保険の130万円は崖で、超えた瞬間に手取りが約30万円落ちる。

といったところです。 院長さんとしてまず大事なのは、この違いを理解しておくこと。

そのうえで面接の場で求職者さんに、

・「扶養の範囲内で」というのは税金なのか社会保険なのか両方なのか
・配偶者の勤務先の家族手当の支給要件はどうなっているか
・年間でどのくらい働きたい・働ける見込みなのか


といったことをきちんとヒアリングしてあげてください。実は本人もどの壁を気にしているか整理できていない、というケースも多いです。

ヒアリングが終わったら、それを踏まえて時給と勤務時間と人件費のバランスを設計します。130万円で抑えるのか、思い切って160万円以上で組むのか、選択肢は複数あります。

求人票に時給だけ書いて募集をかけるのではなく、壁の構造を理解した院長さんが、求職者さんと一緒に最適な働き方を組み立てていくと、求職者の方も安心できるのではないでしょうか。

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