こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
税金は利益が出れば発生するもの、とは限りません。
利益に対して課税されるのは所得税(個人事業主)や法人税(法人)が代表的ですが、実は利益が出なくても課される税目があります。
その正体が消費税です。
いわば儲かっていなくても払う義務がある、ということですね。
つまり赤字でも払う(可能性がある)税金なので、納税予測をしっかりとしておかないと資金繰りに響きやすい少し厄介な税目でもあります。
とはいえ、歯科医院はじめ医療機関の取扱いは少し特徴的です。
その特徴をしっかり掴んで、消費税の支払いで資金繰りに苦しんだり、無駄な税額を払ったりすることがないようにしていきましょう。
少し盛りだくさんで理解しづらい部分もあるかと思いますが、時間がない方は最後の「まとめ」だけでも読んでいただけると嬉しいです。
消費税が発生する取引って?
コンビニで買い物したら消費税払いますよね。
消費税はその名のとおり消費の行為に対して税金が課せられるので、負担するのは消費者になります。
ただ、消費者が国に税金を納めるのではなく、コンビニ(事業者)が一旦消費者から預かって国に納めるシステムになっています。
歯科医院だって同じです。
消費税を患者さんから預かったら国に納めるのが原則です。
でもどうでしょう。
医療機関が発行する領収書をみると、消費税の欄が空白になっていることが多々あるかと思います。
そうなんです。
いわゆる公的な医療保険制度(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度)の対象となる医療は消費税が発生しないので、患者さんは消費税を払っていないのです。
これは、消費税の負担が医療受診への妨げにはなっていはいけない、という制度的な配慮があるからです。
いっぽうで、逆をいえばそれ以外の医療サービスは消費税の課税対象になります。
医療機関の主な収入にかかる消費税の取扱いは以下のとおりです。
- 公的な医療保険制度の対象となる医療
→非課税 - 上記以外の医療(自由診療、健康診断)
→課税(税率10%) - 物販売上(歯ブラシ、歯磨き粉の販売等)
→課税(税率10%) - 物販売上(食品、医薬品・医薬部外品等に該当しない食品)
→課税(税率8%) - 金(金属スクラップの売却)
→課税(税率10%) - 補助金・助成金
→課税対象外(消費の行為に対する対価ではないため)
つまり、上記のうち患者さんと「課税」に該当する取引をすると消費税を預かる(患者さんは消費税を払う)ことになります。
とはいえ、開業時は安心してください
そうなると開業から自費診療や物販をスタートした場合は、患者さんから消費税を預かることになるので、消費税を納める義務が出てくるのかと思いますよね。
でも安心してください。
基本的には開業初年度から2年間(暦年単位で)は消費税の納税義務は免除される規定があります。
どういう規定かというと、2年前の「課税」売上が年間で1,000万円以下だったら消費税の納税義務を免除する、というもので。
開業から2年間は判定する2年前の「課税」売上が存在しないので、基本的にはこの規定が適用されるのです。
ちなみに、基本的といったのは、敢えて消費税を申告する選択をしたり、別の規定で2年目からは納税義務が発生してしまうこともあるからです。
この点は結構応用編なので、開業から2年間は消費税を納める義務はないという原則に立ちつつ、なるべく開業初期の段階で上記の点について顧問税理士に確認しておくことをおすすめします(次章で詳しく解説します)。
歯科開業1〜2年目の注意点
今「ちなみに」でお伝えしましたが、開業から2年間の間でも消費税の納税義務が発生してしまうことがあります。
主な理由を2つ紹介します。
消費税を申告する選択をする(課税事業者選択をする)
なんのための申告する選択をするのかというと、消費税の還付を受けるためです。
え?申告したら預かった消費税を国に納税するんじゃないの?損じゃん、と思われた方がいるかもしれません。
このカラクリは消費税の計算方式にあります。
納める消費税=預かった消費税ー支払った消費税
つまり預かった消費税のほうが多ければ計算結果はプラスになり納税になりますが、支払った消費税のほうが多ければ計算結果はマイナスになり、その金額分消費税の還付を受けることができます。
還付を受けることができるのでれっきとした節税であり、むしろやらないと損になります。
じゃあ支払った消費税が多くなるのはどういうタイミングかというと、大きい買い物をする開業時です。
たとえば税抜1,000万円の医療機器を導入すると税率10%で100万円の消費税を払うことになります。
開業時は医療機器だけではなく、内装費や広告費といった課税対象の買い物をするので、支払った消費税は必然と大きくなりますよね。
いっぽうで開業一年目は「課税」売上になる自由診療売上が年間1,000万円に満たないケースもあるでしょう(最近はそんなケースも減ったかと思いますが)。
だから預かった消費税より支払った消費税のほうが大きくなり、還付を受けやすいのです。
この場合にわざわざ課税事業者選択をして確定申告をするのです。
ただ、支払った消費税のうち預かった消費税から控除できる範囲には限りがあります。
つまり支払った消費税の全部を預かった消費税から控除できるわけではない、ということです。
難しい規定なので簡潔にお伝えすると、控除できる支払った消費税は、預かった消費税に対応する部分だけになります。
「課税」売上である自由診療や物販売上のための買い物(材料、自由診療の設備など)の購入分しか控除できないのです。
なので、
- 開業時に大規模な設備投資を行なう
- 開業当初から自由診療に特化を予定している
この2つの条件が当てはまる方は、開業初年度に敢えて課税事業者選択をして還付を取りにいくことを考えてもいいかと思います。
特定期間の課税売上による免税判定
先ほど、2年前の「課税」売上が年間で1,000万円以下だったら消費税を免除する規定があるから開業から2年間は免除、と伝えしましたが、実は2年目から納税義務が発生してしまうケースがあります。
具体的にいうと、1年目の1月1日から6月30日までの「課税」売上高が1,000万円を超えるケースです。
もし超えたら同期間に支給した給与の支払額が1,000万円を超えるかどうかでも判定することができます。
つまり両方とも1,000万円を超えていると、2年目から納税義務が発生してしまうことになります。
2年間の免税を恩恵をフルで受けられないということですね。
じゃあこの規定があるから恩恵をフルで受けられるように「課税」売上に該当する自由診療報酬や、給与の額をコントロールする必要があるのか。
というと、そこは納税予測を税理士と確認する必要があるかと思います。
まずは、知らなかったがために予期せぬ納税義務を負うことがないようにこの規定の存在だけでも覚えていただければと。
3年目以降納税義務を負うなら
開業3年目に入ると、2年前(つまり1年目)の「課税」売上の実績が出てきます。
その実績が自由診療収入や物販売上のおかげで1,000万円を超えるなら、3年目から納税義務が発生することになります。
というのも、2年前の「課税」売上が年間で1,000万円以下だったら消費税の納税義務を免除する、の規定から外れてしまうからです。
そうなると消費税の納税額を計算して確定申告書を税務署に提出する必要が出てきます。
このとき歯科医院が取りうる消費税の計算方法は3つです。
原則(個別対応方式)、原則(一括比例配分方式)、簡易課税、ですね。
今回はそれぞれどういう計算方法なのかについては割愛させていただきますが、ポイントは消費税の計算方法は複数年の縛りがあることと、事前の選択が必要な場合があることです。
計算方法の選択を間違えると消費税の納税額が何十万何百万単位で変わってしまうので、早いうちから顧問税理士さんと検討しはじめることをおすすめします。
インボイスをどうするか
インボイス制度の詳しい説明は別の機会にとっておくとして、インボイス登録をすると、たとえその登録が1年目でも納税義務を負うことになります。
納税義務がないのにわざわざインボイス登録をするかどうかのポイントは、BtoBの取引があるかどうかです。
たとえば企業相手の自費の健康診断をしたり、インフルエンサーの患者さん(審美歯科が多くなるかと思いますが)がいたり。
稀なケースだとは思いますが、そういった自費治療の治療費を経費扱いしたい方々が患者層に多ければインボイスを登録するということは視野に入れもいいかと思います。
ただ、通常の歯科医院の開業であれば、BtoC取引がほとんどだと思いますので、インボイス登録はせずに開業2年間は納税義務の免除を受けるのが一般的かと思います。
まとめ
少し長くなりましたが、最後に抑えていただきたいポイントを整理します。
- 消費税は赤字でも払う(可能性がある)税金
- ただし一般的な歯科開業の場合は原則2年間は免税(免税期間でも課税事業者選択をした方が節税になるケースも)
- 3年目以降納税義務を負う場合、税理士と計算方法の選択を協議するのがおすすめ
- 一般的な歯科開業の場合は開業時のインボイス登録は不要
ご自身の開業スタイルなら、どのように税務的な選択が良いか一緒に考えたい方は、こちらのメニューを活用してみてくださいね。


