【note】税理士のアタマの中

歯科医院の税務調査の基本と注意点|撤去冠の申告漏れと対策のポイント

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こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。

今回は、多くの開業医の先生方が「得体の知れないもの」と感じているであろう税務調査について、その基本と、特に歯科医院で注意すべき例を解説します。

税務調査と聞くと、身構えてしまう先生もいるかもしれませんが、基本を知って適切に準備しておけば、決して怖いものではありません。

この記事を読んで、税務調査に対する漠然とした不安を解消し、仮に税務調査になったときにも慌てずに対応していただければ幸いです。

目次

税務調査の基本を知る:突然の訪問に慌てないために

税務調査には大きく分けて2種類ありますが、先生方が最も関わる可能性が高いのは任意調査と呼ばれるものです。

任意という言葉から、断れるのではないか?と思うかもしれませんが、実はそうではありません。

税務調査は拒否できない?

税務調査官は、国税通則法に基づく「質問検査権」という強力な権限を持っています。

これによって、納税者は税務調査官の質問に対して正直に答え、帳簿や関係書類を提示・提出する義務があります。

もし、質問を拒否したり、虚偽の回答をしたりした場合は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則の対象になる可能性があります。

では任意調査の「任意」とは何を意味するのかというと。

それは、税務調査官が帳簿や書類などを確認する際に、納税者である先生方の同意が必要になる、という意味です。

令状なしに強制的にガサゴソ調べられるわけではないのが、後ほど説明する「強制調査」との違いになります。

ほとんどの調査は「事前通知」がある

任意調査では、事前に税務署から連絡(事前通知)があるのが通常です。

調査の日程や場所、対象となる税目(法人税、消費税など)、対象期間などが伝えられますので、突然、強面の調査官がアポなしで訪ねてくる、という状況は基本的にはありません。

事前通知から調査当日までに、顧問税理士と連携を取り、必要な書類の準備や、調査で聞かれそうなポイントのシミュレーションをする時間があります。

この準備期間を有効に使うことが、調査をスムーズに進めるための鍵となります。

任意調査の一般的な流れ

  • 事前通知: 税務署から電話などで調査の連絡がある
  • 実地調査: 調査官が来院し、帳簿や現物を確認しながら質問を行う
  • 事後対応: 調査で指摘された点について、税務署と納税者・税理士との間で協議を行う
  • 終了手続: 修正申告書の提出や、調査結果の通知(修正がなかった場合)で終了

事前通知がない「無予告調査」とは?

ただし、例外的に「無予告調査」という形で、事前連絡なしに調査官が突然尋ねてくることもあります。

これは、事前に連絡をすることで、証拠隠滅や不正な取引の隠蔽が行われる可能性があると、調査官が判断した場合に実施されます。

もし、無予告調査で突然調査官が訪ねてきた場合でも、その場で調査を受ける義務はありません。

都合が悪ければ、「今日は対応できませんので、後日改めて日程調整をさせてください」と伝え、顧問税理士にすぐに連絡を取りましょう。

準備なしに調査を受けるのは、先生方にとって不利になる可能性が高いからです。

強制調査と行政指導について

強制調査は、テレビのニュースで見るような、裁判所の令状を持った調査官が突然来て、強制的に証拠物件を差し押さえる調査です。

これは、多額の脱税が確実に見込まれ、悪質性や証拠隠滅の可能性が極めて高い場合に行われます。

通常の医院経営をされている先生方には、あまり関係のない話ですので、過度に心配する必要はないかと思います。

(が、心当たりがある方はお気をつけください)

強制調査は、告発・起訴され、刑事罰の対象となり得る重いものです。

また、税務調査とは異なりますが、行政指導という形で税務署から接触があることもあります。

これは、税務調査のような質問検査権はなく、あくまで「この計算の根拠資料が欲しい」といった、任意での資料提出の依頼です。

例えば、消費税の還付申告をした後に、払った消費税の明細を求められるケースなどがこれにあたります。

法律に基づく調査ではないため断ることもできますが、断り続けると税務調査に発展する可能性もあるため、適切に対応することが賢明です。

税務調査は、決して怖いものではなく、税金の申告が正しく行われているかを確認するための手続きです。

基本を知り、日頃から正しい経理処理を心がけることが、何よりも対応策になります。

歯科医院によくある調査事例:撤去冠の収入漏れ

さて、ここからは歯科医院特有の税務調査の事例について、少し踏み込んでお話ししましょう。

特に税務署がチェックをするのが撤去冠(てっきょかん)に関する収入漏れです。

撤去冠の値上がりが激しいからこそ

撤去冠を金属業者さんに売ることはありますよね。

そのときの代金をきちんと売上に計上しておかないと売上漏れ扱いになります。

「え、たかが金属くずでしょ?」と思うかもしれませんが、最近は金属の価格が上がっているので、「これ結構な金額になるんじゃない?」と、税務署がチェックを強化していてもおかしくはないと個人的には考えています。

例えば、金パラなどの貴金属は、まとめて売却すると数十万円、場合によっては数百万円になることも珍しくありません。

この金額が、先生の医院の売上として正しく計上されていないと、税務署は「不正な所得隠しだ」と指摘し、ペナルティを受けることになりかねません。

難しいのは他にミスがないことを証明すること

もっと怖いのは、一件でも漏れが見つかると、「じゃあ他にもあるんじゃないか」と疑いの目のレベルがグッと上がることです。

税務調査官は、撤去冠の買取業者との取引履歴、銀行口座への入金記録など、あらゆる証拠を徹底的に調べ上げます。

「これ以外には漏れがない」と証明するのは本当に大変です。

無いものを無いと証明する客観的証拠を示しにくいからです。

撤去冠の売却代金は雑収入として、必ず医院の売上の一部として計上しなければなりません。

「知らなかった」「うっかりしていた」では済まされないのが税務調査です。

日頃から、撤去冠の管理と売却代金の処理には、細心の注意を払うようにしてください。

売上計上漏れを起こさない対策

では、この撤去冠の収入漏れという落とし穴に落ちないために具体的にどんな対策を講じるべきでしょうか。

もっとも有効な対策は「売上を漏らさない仕組みを作ること」です。

仕組みさえ作ってしまえば、あとはルーティンで処理できますから、先生方の精神的な負担も大きく減ります。

対策①:撤去冠の代金は「現金」でもらわない

まず、一番重要なのが、撤去冠の売却代金を現金でもらわないことです。

現金で受け取ると、そのお金が先生の財布やプライベートの口座に入ってしまい、医院の売上として計上するのを忘れてしまう、というミスが起こりやすくなります。

対策として、買取業者には必ず銀行口座に入金してもらうようにしてください。

そして、入金があったら領収書も発行しておくとより安心です。

これだけで、「業者との取引記録」「銀行への入金記録」「医院の領収書」という3つの証拠が残ります。

この証拠があれば、万が一税務調査で指摘されても、「はい、これが入金記録と領収書です。間違いなく売上として計上しています」と、後から説明が非常にしやすくなります。

対策②:入金先は必ず「医院の事業用口座」にする

そして、この入金先の銀行口座は、必ず医院の事業用口座にしてください。

プライベート用の口座への入金だと、他の入金と混ざってしまい、経理担当者や税理士が売上漏れを発見しにくくなります。

事業用口座であれば、入金された履歴はすべて税理士がチェックしますので、漏れる可能性は極めて低くなるのがメリットです。

もし、先生が「プライベートの口座に振り込んでもらった方が楽だから」と安易に考えてしまうと、それは税務署に目をつけられる大きな原因になりかねません。

公私混同を避けること。

これが、税務調査対策の鉄則です。

まとめ

本記事では、開業歯科医師の先生方に向けて、税務調査の基本と、特に注意すべき撤去冠の収入漏れ対策について解説しました。

項目概要対策のポイント
税務調査の基本ほとんどは「任意調査」で、事前通知がある。質問検査権があるため、拒否はできないが、同意なしに強制調査はされない。顧問税理士と連携し、事前準備を徹底する。無予告調査の場合は、その場での対応を避け、日程調整する。
撤去冠の収入漏れ金属価格の高騰により、税務署がチェックを強化している可能性が高い。一件でも漏れが見つかると、過去に遡って徹底調査される傾向にある。売上として必ず計上する。現金での受け取りを避ける。入金は必ず医院の事業用口座にしてもらい、領収書をセットで保管する。銀行口座の公私混同を避け、入金の記録が残る仕組みを作る。

税務調査は、日頃の経理体制をチェックする機会だと捉え、専門家である税理士と二人三脚で、健全な医院経営を目指しましょう。

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