こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
中東情勢の緊迫化を受けて、歯科医院の現場でもじわじわと影響が出始めています。
「グローブの納期が読めない」「開業予定だけど、建築会社から工期延長の打診を受けた」といった話が、ここ最近になって複数寄せられています。
こうした供給サイドの不安定さは、消耗品の仕入れコストや開業スケジュールだけでなく、最終的には院長さんの資金繰りそのものに影響してきます。
特に、休診・稼働率低下のリスクや固定費の継続的な負担まで考えると、今のうちに手を打てることは打っておいたほうがいい、というのが僕の見立てです。
今回は、中東情勢が歯科医院の資金繰りにどう波及するのかを整理した上で、財務面で今やっておくべき備えについてまとめていきます。
中東情勢が歯科医院に及ぼす2つの具体的な影響
先生方もすでに感じられている通り、影響の出方は一律ではなく、医院のフェーズ(開業前・既存医院)によって異なります。ここでは現場で実際に起きている2つの影響を、資金繰りへのインパクトという観点から整理します。
既存医院への影響:消耗品の供給不安による診療体制の不安
SNSでも話題になっていますが、グローブをはじめとする石油関連の消耗品の供給が不安定になってきています。
歯科医院で使う消耗品の多くは、石油由来の製品です。グローブ、エプロン、その他のディスポーザブル類など、毎日大量に使う衛生用品の原料をたどっていくと、ほぼすべて石油に行き着きます。
中東情勢が原油価格や海運物流に影響を与えると、供給不足や価格高騰という形でダイレクトに現場に跳ね返ってきます。普段何気なく使っている消耗品ですが、仕入れが数週間止まっただけでも、医院の運営は一気に苦しくなります。
実際、衛生用品が足りずに、やむを得ず休診している医院さんもちらほら出てきていると聞きます。
診療ができないということは、収益がゼロになるということです。しかし、家賃や人件費といった固定費の支払いは止まってくれません。売上ゼロだけど固定費は出続けるという、経営的にいちばん厳しい状態に陥ることになります。
開業準備医院への影響:工事の遅延
これは開業を控えている先生方に、特に関係してくる話です。
物件の内装に必要なコーティング剤が手に入らず、建築会社さんから工期延長の打診を受けているケースが、実際に複数出てきています。
工期が延びるということは、開業日そのものが後ろ倒しになるということです。
これは単に「オープンが遅れる」というレベルの話ではなく、事業計画そのものを揺るがす事態になります。
開業が延期されると、想像以上にお金の問題が発生するのです。
たとえば、求人に成功して、すでに採用が決まっている人材がいる場合を考えてみてください。
開業が遅れても、内定が先に出ていると法律の制限を受けるため内定取消しを出せるわけではありません。
人件費はその期間分そのまま発生します。
職種や勤務形態によって異なりますが、法定福利費も入れると月に1人あたり30万円近い人件費が、医院が稼働していない状態で毎月出ていくわけです。
3人雇用予定で1ヶ月延長になれば、それだけで100万円近いのキャッシュアウトになります。
「その間に研修を丁寧にやればいい」という考え方もあります。確かに研修期間を有効活用することは大切ですが、研修そのものは直接的に収益を生まないので、根本的な解決にはなりません。
家賃、リース料、光熱費といった固定費も同じです。医院は稼働していないのに、お金だけが出ていく。開業前の資金計画に「延期リスク」を織り込んでいないと、オープン前に運転資金がショートする、という最悪のシナリオもあり得ます。
まずは、融資や採用スケジュールを確定させるために、建築会社さんや内装業者さんにそういった懸念がないか、状況を確認してみてましょう。
国の支援制度は?コロナ禍との違い
では、今回の中東情勢に関して、国の支援制度はどうなっているのか。コロナ禍との比較で整理しておきます。
結論から言うと、歯科医院が広く使いやすい補償制度は、現時点では存在しません。
現時点で動いているのは、次のような対応です。
- 関係省庁から金融機関に対して、中東情勢による緊急相談窓口を設置するよう通達が出ている
- 日本政策金融公庫からセーフティネット貸付が出ている
ただ、これらは「補償」ではなく「融資」です。つまり、借りたお金はいずれ返さなければなりません。コロナ禍のような返済不要の休業補償とは、性質がまったく違います。
「いずれ国が補償してくれるだろう」という楽観的な見通しで経営判断をするのは、現状は関してはかなり危険です。自分の医院は自分で守るという前提で動く必要があります。
ただ、医療用グローブに関しては、高市総理が5月に備蓄分の放出をはじめることを公表しているので、少しは緩和するかもしれません。
今、最優先でやるべきこと|運転資金の確保
ここからが本題です。
こういう状況で最も大切になってくるのは、運転資金の確保です。
休診まで行かなくても、稼働率や予約枠を削らざるを得ない場面が出てくると、損益は確実に悪化します。
そのとき、毎月必ず出ていく人件費や家賃といったインフラコストを払える手元資金があるかどうかが重要ポイントです。
まず確認すべきは「固定費の2〜3ヶ月分」
まずやっていただきたいのは、ご自身の医院の1ヶ月の固定費を把握して、その2〜3ヶ月分の現預金があるかを確認することです。
- 1ヶ月の固定費はいくらか?(人件費・家賃・リース料・水道光熱費など)
- いま手元にある現預金はいくらか?
- 何ヶ月分の固定費をカバーできるか?
この3つを把握するだけで、経営の安全性がぐっと見えるようになります。特に、売上が仮にゼロになったと仮定して「何ヶ月持つか」をシミュレーションしてみると、自分の医院の体力が一目でわかります。
借入負担が軽い医院は「今のうちに借りる」選択肢も
もし借入負担がそれほど大きくない医院であれば、今のうちに銀行から新たな融資を受けておくことも検討する価値があります。
理由は2つあります。
1つ目は、直近の数字が良ければ信用力が高く、融資が通りやすいことです。業績が悪化してから借りようとしても、銀行は貸してくれません。「借りられるときに借りておく」が財務の鉄則です。
2つ目は、国から金融機関に通達が出ているため、通常よりも柔軟に対応してくれる可能性が高いことです。こういうタイミングは、資金調達のチャンスでもあります。金利条件や据置期間の交渉余地も、通常時よりは広がりやすい傾向にあります。
節税よりも資金確保を優先すべき理由
ここで強くお伝えしたいのが、「節税なんかもってのほか」ということです。
僕はいつも言っていますが、節税は基本的にキャッシュアウトを伴います。
お金を払った分しか、税金は安くならないのです。
節税で100万円の経費を作れば、税率を約30%とすると、税金は30万円しか下がりません。残りの70万円は、医院の外に出ていったきり戻ってきません。
利益を圧縮することだけを考えていると、中東情勢のようなコントロール不可能な事態が起きたときに、手元資金が足りず、経営が一気に厳しくなります。
逆に、ここである程度余裕を持って資金を回せれば、この苦しい局面でも次のような動きができます。
- 周りが採用を控えている中で、好条件の求人を出せる
- 周りが人件費を上げられない中で、給与条件を引き上げられる
- 設備投資のタイミングを逃さない
- 不動産や物件の好条件なタイミングを掴める
世間一般が苦しいときこそ、財務力のある医院は圧倒的に有利な戦い方ができます。
採用の話で言えば、普段なら動かないような人材が、他院の条件悪化によって市場に出てくるタイミングでもあります。ここで動けるかどうかは結構大きいのではないでしょうか。
これが、普段から資金を厚く持っておくことの本当の意味です。節税で目先の税金を数十万円減らすよりも、いざというときに動ける現預金を数百万円持っている方が、経営的にはるかに価値があります。
まとめ|日頃からの財務力が、非常時の経営を守る
今回の中東情勢に限らず、経営にはコントロールできない外部要因がつきものです。コロナ禍、ウクライナ侵攻、円安、原材料高騰、そして今回の中東情勢。
数年単位で何かしらの想定外が必ず起きます。だからこそ、日頃の備えが勝負を分けます。
最後に、今日お伝えしたいことをまとめます。
- 中東情勢は、消耗品供給・開業工事の遅延・休診リスクという形で、すでに歯科医院に影響を与えている
- コロナ禍のような休業補償は現時点で存在せず、あるのは一部の「融資」のみ
- まずは1ヶ月の固定費の2〜3ヶ月分の現預金があるかを確認する
- 借入余力があるなら、業績が良い今のうちに融資を受ける選択肢も検討する
- 節税でキャッシュを減らすよりも、手元資金を厚くすることを優先する
- 毎月資金状況をモニタリングし、不足しそうなら早めに融資に動く
- 開業準備中の医院は融資や採用スケジュールを確定させるために、建築会社さんや内装業者さんにそういった懸念がないか、状況を確認する
財務力を高める努力は、一朝一夕にはできません。だからこそ、平時から資金繰りに意識を向けて、少しずつ積み上げていくことが大切です。
中東情勢は日本の中小零細企業にはコントロールできません。でも、自分の医院の財務体質は、今日から変えていくことができます。


