こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
今回のテーマは「人件費の決め方」です。
ネットやコンサルタントの情報だと「人件費は売上の◯%が適正」「労働分配率は◯%以内に収めましょう」といった文言をよく見かけます。
でも僕はこういった指標を開業準備に使うことをおすすめしていません。
理由は後半で詳しく話しますが、一言でいうとそんな平均値は今から開業しようとする医院には当てはまらないからです。
今回は表面的な計算式ではなく、もっと現実的な「人件費を決める要素と理由」にフォーカスして話していきます。

人件費が決まる9つの要素
人件費を設計するうえで、最初に固めておくべき項目があります。
歯科衛生士さんであれ、歯科助手さんであれ、基本的に次の9つです。
① 基本給(時給):
採用したい人材の水準と、地域の相場感を踏まえて設定します。周辺医院の給与形態はハローワーク情報をインターネットで検索すればだいたい見えてくるのでぜひ参考にしてみてください。
② 資格手当 :
歯科衛生士・歯科技工士・保育士・管理栄養士など、資格に対して支給する手当です。資格者を大切にする姿勢を給与体系に反映させることができます。他職種連携を重要視している医院ならより緻密に設計していきたいところです。
③ 諸手当:
役職手当・皆勤手当・住宅手当など、医院の方針によって設けるものです。何を設けて何を設けないかも、院長さんの価値観を表します。家族手当を付ける院長さんもいらっしゃいます。属人的な手当のためスタッフ間で不公平感が出ないように注意する必要はありますが。
④ 賞与:
何ヶ月分を年何回支給するか、で決まります。いちばん多いのは基本給2ヶ月分を年2回に分けて支給するケースです。資金繰りが心配で固定したくない場合は、「業績に応じて支給する」という表現をする場合もあります。
⑤ 勤務時間・休憩時間 :
診療時間に合わせて設計しますが、労働時間の上限や休憩時間の取り方は労働基準法上の定めがありますので注意が必要です。
⑥ 年間休日:
日曜・祝日の扱い、夏季・年末年始休暇の日数など。スタッフさんが入職前に確認する重要ポイントのひとつです。家族事情を勘案して特別休暇を設計する院長さんもいらっしゃいます。
⑦ 通勤費:
マイカー通勤か公共交通機関かでも変わります。マイカー通勤の場合は、駐車場の確保と料金負担の問題もあります。
⑧ 福利厚生(研修費・学会費の負担など):
特に歯科衛生士さんへのアピールとして有効です。認定資格を取るための学会への参加費や交通費を負担する医院は、スタッフの成長を応援する医院という印象を与えられます。
⑨ 雇用開始時期:
開業日よりも前に採用する場合、その期間の人件費も開業コストに含まれます。開業前研修期間の扱いは事前に明確にしておきましょう。
なぜ最初に人件費設計をするのか
理由①:労務トラブルの予防
「採用してから細かいところは決めよう」という考えは危険です。
まず1つ目の理由は、決めてから求人募集をかけないと、後々トラブルの原因になるからです。
「求人票には書いてあったのに実際は支給されなかった」、逆に「求人票にはなかった条件が入職後に言われた」——こういうことが起きると、スタッフとの信頼関係は一気に崩れます。
今は歯科業界全体で人手不足が深刻な時代です。働き手の立場が強いなかで、隙のある雇用条件の設計をしてしまうと、せっかく採用したスタッフがすぐに辞めてしまうリスクがあります。
オープニングスタッフとして求人しやすい有利条件を使えるのは一回きりです。
辞めてユニットの稼働率が下がったら、せっかく集まってきた患者さんを対応しきれなくなり、結果収益も不安定になります。ただでさえ資金繰りが苦しい開業後数ヶ月間に。
ある社会保険労務士の先生がこんなことを言っていました。
「労務問題の最大の解決法は予防です」
歯科と同じですよね。問題が起きてから対処するのではなく、起きない設計をすることが大切です。就業規則をある程度作り込んでから求人をかける、それが労務トラブル予防の基本です。
そういう意味で、僕は求人情報を載せる前段階から社会保険労務士さんに相談することを強く推奨しています。
社会保険労務士さんは、院長先生の意図や方針を汲んだうえで、これらの条件をバシッと決めてくださるので。
理由②:資金繰りシミュレーションのため
人件費を事前に固める2つ目の理由が、開業前後の固定費を正確にシミュレーションするためです。
求人をかけるタイミングというのは、多くの場合、融資条件がほぼ確定しているか、交渉の終盤に差し掛かっているころです。
そのタイミングで確認しておきたいのは、「この融資条件のもとで、この人件費を払いながら資金繰りは回るか」という点です。
計算するのは1年先まで必要ありません。大切なのは最初の半年間です。
具体的には、雇用開始月(多くの場合は開業日より前)から、開業後6ヶ月までの資金繰りを確認してください。
歯科医院の収入の特性として、診療報酬の入金には2〜3ヶ月のタイムラグがあります。
もっというと、小児歯科などほとんど公的医療が負担する場合は、ほぼ窓口入金はありませんからね。
開業直後の数ヶ月は、売上が立っていても実際の入金はほとんどない状態が続きます。
その間も、人件費・家賃・リース料などの固定費は毎月確実に出ていきます。
つまり、最初の数ヶ月は収支が赤字になるのは当然です。問題はその赤字がいつ、いくらになるかです。
その累積赤字の金額を、開業融資の運転資金として確保できているかどうか。ここが開業後の資金繰りの勝負を分けます。
人件費を先に固めておくことで、この計算が初めて正確にできます。「だいたいこのくらい」では、運転資金が足りなくなったときに必要な設備投資や求人にお金を出すことができません。
つまりジリ貧の状態、攻めの一手を打てなくなるのです。
この辺りの具体的な対策はこちらの記事で詳しく解説しているので合わせて読んでみてくださいね。

他医院の売上比率・労働分配率は当てにならない理由
冒頭でも触れましたが、「人件費は売上の◯%」「労働分配率は◯%が適正」という指標を開業計画に使うことを、僕はすすめていません。
その理由は、一括りに「歯科医院」といっても、院長の診療方針や診療内容によって必要な人件費がまったく異なるからです。
僕が言うまでもないですが、こんな違いがありますよね。
ほぼ治療はせず、歯科衛生士さん中心のメインテナンス特化型の医院では、歯科衛生士の人数が収益の柱になります。当然、人件費の割合は他院より高くなります。
一方、インプラントや口腔外科系の処置に力を入れている自費中心の医院では、院長1人+オペ助手を基本体制においているところもあります。そうすると人件費は極端に低くなります。
あとはどんな属性のスタッフさんと一緒に仕事をしたいかでも変わります。
子育て中の人を採用するのか、研修を積極的に受けたい人を採用するのか。
つまり、人件費の最適な割合は医院のスタイルによって変わるのです。
そもそも、世の中に出回っている「平均」とは何でしょうか。それは言い換えると「標準的な医院の平均値」です。
「今までの歯科医院とは違う診療をしたい」「他医院とは差別化した医院を作りたい」。そういう思いで開業を目指している先生ほど、業界平均から乖離した人件費構造になります。
平均値に合わせようとすると、自分の医院のコンセプトを歪めることになりかねません。
資金繰り予測はそれを踏まえたうえで立てたほうがいいのは言うまでもありませんね。
まとめ
今回の話をまとめると、次のようになります。
- 人件費は9つの要素をすべて事前に固める
- 固める理由は「労務トラブルの予防」と「正確な資金繰りシミュレーション」の2つ
- 開業後6ヶ月の累積赤字を把握し、融資の運転資金で賄えるかを確認する
- 世の中の売上比率・労働分配率の指標は、自院のスタイルに合わない可能性が高い
人件費の設計は採用と資金繰り、両方に直結する重要な意思決定です。
実際にシミュレーションしてみたけど合っているかよく分からない、もしくは、そもそも給与の構成から一緒に考えてほしい、という人がいたらLINEからメッセージをくださいね。


