こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
今日は注意喚起の投稿です。
というのも、ここ最近、SNSやネットニュースで不安を煽る税金関係の情報が多発しているからです。
いや、いま試しにググってみたのですが、テレビでもそんなニュースが流れている動画がありますね。
信頼できないメディアばかりです。
みなさんは、誤情報に騙されないリテラシーをお持ちかと思いますが、たまに真にうけてしまっている方もいらっしゃるので念のためお伝えしていきます。
今一番騒がれているのは、個人に対していままで非課税だったものが課税される、という情報です。
通勤手当や奨学金に課税される、という報道がありますよね。
最初にお伝えしておくと、いまの騒ぎは、報道やSNSで誤解を与える表現が濫用された結果、誤った理解をしている人が無意味に騒いでしまっているだけなのです。
ということなので、この記事では昨今の増税騒動の裏側と、国民である我々がこういった報道や情報に対してどのように接していけばいいのか、ということをお伝えしていきます。
非課税→課税報道の真相
いままで非課税なのに今後は課税される、増税だ、と騒がれているものは、以下のものがあります。
- 通勤手当への課税
- 社宅の貸付への課税
- NISAで得た利益への課税
- 奨学金への課税
まあ、これらが全て課税されるとなったら確かに国民にとっては痛手です。
ですが、その情報の出所をたどると、まったく決定事項ではなく、国民はメディアに煽られているだけだということが分かります。
というのも、錯綜している情報は、政府から「今後の税制のあり方を検討しておいてね」と言われた税制調査会が出した資料に記載されている内容の拡大解釈だからです。
どういうふうに拡大解釈されているかというと。
税制調査会は、
- 経済社会の構造が変化してきていますよね
- だからいままで非課税とされてきたもののなかに、非課税が適切ではなくなっているものもあるかもしれないですよね
- もしあるなら公平性や中立性を考えて、注意深く検討したほうがいいですよね
- ちなみに参考情報として、いま非課税になっているものは通勤手当、社宅の貸付、NISA、奨学金などなどがあります
と提言しているだけです。
お分かりかと思いますが、この参考情報に書かれている“文字”だけ拾って、今後は課税されるだとか、増税だ、とか騒がれているのが真相なのです。
岸田さんはじめ政府は、税制調査会の提言を受けて「学者はこう考えているのか。どうしようかな。」と検討していくので、まだ何にも決まってはいません。
そもそも、税制調査会というのは、税制に詳しい学者や実務家の集まりで、政府に対して「いまこんな問題が起きていますね」「今後はこんな課題に取り組む必要がありますね」と提言をする機関です。
あくまで提言であり、政府はその意見を政策に取り入れてもいいし、取り入れなくてもいいのです。
といったことを踏まえると、SNSや報道は文脈と背景を全く無視していることが分かりますよね。
個人的には、SNSで騒がれるのは仕方ないとしても、テレビ局がこういった報道をするのは視聴率稼ぎを狙っているとしか思えません。
まあ、視聴率を稼ぐことで収益を得ているビジネスなので視聴率を重視するのは当たり前だと思うのですが、適切な報道という点ではよろしくないと考えています。
退職金への増税報道の真相
いまお話した非課税が課税になるかもしれない、という騒ぎ少し前に、退職金への増税が検討されている、という騒ぎもありました。
実は、この情報の出所は先ほどと少し違います。
この情報は、「経済財政運営と改革の基本方針2023」という閣議決定された方針が情報源となっています。
先ほどの税制調査会と違うのは、岸田さんはじめ閣僚の意思決定が反映されているところです。
つまり、退職金への増税は、非課税が課税になる動きと比較して、実現する可能性が高いといえます。
ただ、そうは言っても決定事項ではありません。
税法は、各省庁、経済団体、民間企業などの要望を踏まえて、税制調査会が審議し、その結果を受けて年末に与党(今なら自由民主党と公明党)が税制改正大綱を取りまとめます。
税制改正大綱は改正の原案なので、ほぼそのまま法律化されます。
なので、退職金への増税案は、このままいけば増税に向けて議論が進んでいく可能性は高いですが、今後どうなっていくのかは注目していかなければいけません。
仮に、解散総選挙があって政治体制が変われば税制の動向もガラッと変わってしまうので、未確定要素は多いといえます。
いずれにしろ、今の時点で「退職金に増税されるから早く退職しないと!」と焦る必要はない、ということです。
特に、退職時期を迷っている経営者の方は、金額と会社に与える影響が大きいので注意です。
誤情報に騙されないために
基本的に、SNSや報道は元情報を拡大解釈した“煽り”だという認識をもって、元情報を確認する、専門家の解説を冷静に待つ、という姿勢が重要です。
元情報というのは、今回の例で言うと、税制調査会や閣議決定された資料です。
「そんなのは小難しくて見てられない」と思われるかもしれませんが、いまはネットで公開されていますし、場合によっては概要を説明している資料も添付されているので、それを見ていただいてもいいかと。
今回紹介したものは、それぞれのリンクを参考として貼り付けておきます。
税制調査会の答申:令和5年6月わが国税制の現状と課題 ―令和時代の構造変化と税制のあり方―
※非課税の所得を課税にするという騒動の的になったのは、P.102の「非課税所得等」という段落です。
経済財政運営と改革の基本方針2023
※退職金への増税に言及されているのは、P.5の上段にあります。
毎回ニュースになる都度、確認作業をしてくださいというつもりはありませんが、特に増税ニュースに関しては、ネットで騒がれていることを一旦疑うという姿勢があなたの身を守ることになります。
というのも、増税ニュースに乗じて色々なスキームや商品が作られて、売り込まれる可能性があるからです。
いや、それが本当に必要なものだったら全く問題ないのですが、営業マンのなかには「増税のニュースもありますし、この節税商品いかがですか。」という方もいます。
お分かりのとおり、まだ不確定な増税ニュースに便乗して、それが全くお門違いな情報であるにもかかわらず、心理的に煽っている、と言われてもおかしくない状況があります。
こういうときは、その営業マンに対して「その情報はどうやって調べられたんですか?」と聞いてみてもいいかもしれません。
少なくとも元情報が分かっていないようでしたら、冷静になって身構えることをおすすめします。
買ってしまってからでは遅いので。
そして、経営者であれば自分の財産だけではなく、会社の財産を守るためにも、税金の情報に対する適度なリテラシーはもっていただきたいです。
この点で、最近は、士業が配信しているYouTubeをみて勉強されている経営者の方もいます。
その姿勢は非常に素晴らしいことだと思うのですが、たとえ士業が配信している情報であっても元情報を一度Google検索してみてください。
長時間をとる必要はなくて、さっと検索して、「あ、こういう文脈で書かれてるんだ」程度で探っていただければと思います。
これを何回か繰り返すことで、騙されない筋力が付きますし、税制の時流がだんだん分かってくるはずです。
個人的には、節税策について調べる時間があったら、税制の基本的な考え方や歴史、仕組みを勉強していただくことをオススメします。
何事も基礎からです。