こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
突然ですが、戦略を練るときってどうしていますか?
戦略はひらたくいうと、資源(リソース)をどのように配分するかいうこと。
漫画キングダムでいえば、女軍師である河了貂(かりょうてん)が飛信隊はじめ秦国軍の部隊をどこに配置するか、というのが戦略になります。
(キングダムを知らない方はすいません。ふつうに軍の指揮官と部隊の話と思っていただければ)。
ちなみに、似たような言葉で戦術という言葉があります。
戦術は、どのように戦うのか、ということ。
あえてもう一度漫画キングダムでたとえると、飛信隊の信が王騎将軍の矛をぶん回しながら力技で突進する、のが戦術です。
ここではもっと現実的な経営の戦略を話をしていきますが、その戦略を練る役割を担っているのは紛れもなく経営者です。
そして経営者は常にその戦略に立ち返りながら具体的な戦術を、部下や社員に指示していくことになります。
ですので、戦略は経営指針ともいえるわけです。
が、戦略策定の方法を本や講座で勉強したところで、なかなか前に進まない、というお悩みをいただくことがあります。

戦略フレームワークの罠
経営戦略を策定するときによく使われるのがフレームワーク(枠組み)です。
代表的なものでいうと、
- PEST分析
- ファイブフォース分析
- 3C分析
- SWOT分析
- クロスSWOT分析
といったものがあります。
たとえば、PEST分析だとマクロ視点で外的環境を観察していくことになりますが、どれも戦略策定にあたってのツールとして活用されています。
で、こういったフレームワークが強いのは「現状分析」です。
要は、いま市場が何を求めているのか、どういった脅威があるのか、といった外部環境や、自社が他社と比べて何が強いのか、逆に何が弱いのか、といった内部環境の”いま”を分析することに長けています。
もちろん、この”いま”に目を向けて現状を分析することも大切なのですが、逆に、フレームワークは「将来あるべき姿」や「将来実現したい姿」を考えにくい、という点があります。
まあ、フレームワークからもこういった将来の姿を描くことはできますが、「現状を考えるとこうなりそう」という現状からの積み上げ型の姿になります。
この場合、良いも悪いも非常に現実的な戦略しか見えてこなくなります。
また、この現実的な戦略、は、言い方を変えれば差別化が難しい戦略、ともいえます。
というのも、よく考えてみたらお分かりになるかと思いますが、たとえばPEST分析や3C分析をしたところで、競合他社と自社が置かれている外部環境にそんなに差はないですよね。
そして、内部環境に関しても、まったく同じ人が働いているわけではありませんが、特筆すべき特殊能力を持っている人がいたり、社員の層に特徴があったりしなければ、他社と差別化を図ることは難しくなります。
そうなると、結果的に手の打ちようがなくなるわけです。
イメージとしては、最初からゴールが見えているわけではなく、いま自社が置かれている状況や他社の動向を確認しながら、おそるおそる前に進んでいる感じでしょうか。
でも、それだと自社がどこに資源(リソース)を割くべきなのか、という決定的な戦略は見えてきません。
ですので、戦略フレームワークにこだわりすぎると、本当に自社にとって必要だと思える戦略が立てられない可能性がある、ということに注意が必要です。
念のためお伝えしておきますが、戦略フレームワークは、戦略を策定するときの着眼点やヒントを与えてくれるツールであり、それ自体を作ることが目的ではありません。
事業計画書では、戦略フレームワークを使って戦略策定の過程をまとめることがありますが、それはあくまで外部への説明用として分かりやすく書類化することが目的、という位置づけでも良いかと思います。
これからの戦略は逆算型で
では、フレームワークを使った積み上げ型の将来の姿から、決定的な戦略を策定できないのならどうしたらいいのか。
それを解決するのは、積み上げ型ではなく、逆算型で戦略を策定するという考え方です。
もう少し具体的に言うと、まずあるべき将来の姿(ゴール)を描き、そこから戦略を逆算する方法をいいます。
ですので、積み上げ型とは違い、最初からゴールが設定されている、ということになります。
また、積み上げ型のゴールは、外部環境や内部環境を踏まえた「こうなりそう」という予測の姿です。
そのいっぽうで、逆算型のゴールは「こうあるべき」という理想論に近い姿になります。
で、ここで考えたいのは、今の時代に「こうなりそう」という予測が役に立つのか、ということです。
もちろん、予測をすることは大切なのですが、予測の難易度って確実に上がってますよね。
分かりやすい例でいうとコロナ。
Zoomなどの普及によって「人に会う」という行為自体の概念が変わりました。
もっと最近でいうと、OpenAIのChatGPTやそれに対抗するGoogleのBardの出現。
これによって、「何かを調べること」の概念が変わりつつあります。
このように、不確実性の高い世の中ではゴールを現状から積み上げて考えるのは難しくなっています。
だからこそ、ゴールを最初に設定して、戦略はそこから逆算で策定していった方が、結果的に現実的な戦略が見えてくるのではないか、ということなんですね。
そして、コロナや人口知能の出現のような大きな変革があれば、その都度戦略を見直せばいいのではないでしょうか。
戦略フレームワークは、こういう見直しのタイミングで、いま世の中はどういう状況になっているのか、自社の武器は何なのか、ということを整理するときに活用すればいいのです。
求められるゴール像
ということで、逆算型では最初に設定したゴールから戦略を策定していくわけですが、そうなると、そのゴールをどう定めるかがポイントになってきます。
結論をいうと、そのポイントは解像度です。
要するに、ゴールを達成したときの状態を、細部まで描けるかが重要だということなんですね。
たとえば、ゴールが「素晴らしいラーメン屋になる」だけだと、どうでしょうか?
素晴らしいといえる基準が分からないので、どうやったら素晴らしい状態になるか、という戦略がはっきりしません。
いっぽうで、「毎年1万人のお客様のごちそうさまをお聞きして、地元のソウルフードになる」という表現だったらどうでしょうか?
まず、どれくらいの人数のお客様が来店して、どのような満足を届けているのか、そして自社の商品が社会に対してどういう影響を与えているか、というゴール像がイメージできるかと思います。
そうすると、
- 毎年1万人のお客様を集客するためには何が必要か?
- 「ごちそうさま」を聞くためにはどのような商品開発をすればいいか?
- 地元のソウルフードになるためにはどうやってアピールしていったらいいのか?
という戦略の入り口がみてきませんか?
ですので、自社だけではなく、お客様や社員、社会がどういう状態になっているかを言語化することで、ゴールの解像度が上がり、具体的な戦略が見えてくる、ということなんですね。
この考え方はステークホルダー資本主義ともいえます。
ステークホルダー資本主義については、直近の記事でも解説しましたが、簡単に紹介します。
ステークホルダー資本主義とは、お客様、社員、株主、協力企業、地域社会といった、自社を取り巻くステークホルダー(利害関係者)全員にとって良い影響をもたらす経営をすることです。
先ほど例に挙げたラーメン屋のゴール「毎年1万人のお客様のごちそうさまをお聞きして、地元のソウルフードになる」は、まさにステークホルダーを意識して言語化していることが分かっていただけるかと。
もっと欲をいうと、このゴールの例は、お客様と地域社会というステークホルダーしか見えていないので、その他のステークホルダーがどういう状態になっているべきか、ということも言語化しておきたいところです。
そして、このゴールの言語化にあたっては、五感に響くようになっているとより解像度が増します。
「1万人のお客様」は視覚的でわかりますし、「ごちそうさまをお聞き」することは聴覚的にわかるかと思います。
人間は五感で世界を認識するので、いろんな感覚をかき立たせる言葉が入っているゴールが文章化されていると、より印象に残りますし理解が深まるんですね。
何より、こうやってステークホルダーの状態や五感の解像度が高いゴールだと、そのステークホルダーから応援されやすいゴールになります。
というのも、「うちの会社はステークホルダーさんに、こんなふうに幸せになってもらいたいです」ということを宣言できているからです。
このように、ゴールの解像度を上げることで、より具体的で共感される戦略がみえてくるでしょう。
で、最後におすすめしたいのは、自社を取り巻くステークホルダーを紙に書き出してみることです。
真ん中に自社と書いて、その周りに各ステークホルダーを種類別に、できるだけ細かく書いてみてください。
書き出せたら、その人達がどういう状態になっていて欲しいかを言語化してみて、解像度の高いゴールを設定していただければと。
そのゴールと現状を比較したときの差を埋める条件が戦略になります。