こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
今回は、税金や経営とは少し毛色が違う人口減少問題をテーマにします。
とはいえ、この問題は、税収や人材不足、そしてお金の問題に直結するので、これらと全く関係のない問題でもありません。
ご存知のとおり人口減少問題がよくニュースや特集で取り上げられていて、特に減少率が著しいのは地方だと言われています。
一般人の肌感覚としてもその通りですよね。
で、この地方の人口減少問題の議論では、その前提として「人口減少が悪」とされています。
そして、それがあたかも絶対の正解かのように、人口を維持するための政策を打っている地方自治体が多いのが現実かと思います。
たとえば、こちらの記事では、富山県から22歳の女性が突出して県外に出ていくのを問題視しています。
https://www.fnn.jp/articles/-/572650
「突出して22歳女性が出ていく県はほぼ見かけない」富山の人口減少要因に『若い女性の県外流出』解決策は|FNNプライムオンライン
この記事の動画のなかでは、22歳の女性、つまり大学卒業と同時に就活する女性が、県外に出ていかないような取り組みが大切だと訴えています。
そのうえで、県内の中小企業経営者に対して、女性が働きやすい職場をつくるために意識改革を促しています。
この記事をみた私の最初の感想はこんな感じでした。
私は正直、このような政策には違和感があります。
この記事から思い浮かぶ違和感は次の3つです。
- 地方の「人口減少が悪」だと決めつけること
- その解決策として若者を県内に引き留めようとすること
- 地元企業に意識改革を求めること
私は富山県出身で、この記事を見つけたのも出身地つながりというのが関係していますが、どの地方にも当てはまる話かと思います。
今回は、この違和感を深堀りしていきたいと思います。
「人口減少が悪」は本当か?
そもそも、「人口減少は悪」でしょうか。
確かに企業が人手不足になるのはそのとおりですが、理論的には人口が減れば経済規模は縮小し労働需要が減るので、企業が必要とする人的リソースも小さくなります。
人口が100万人の街が1,000人の村になったら、必要とされる仕事の数も量も減るのは当然ですよね。
重要なのは人口減少そのものではなく、人口減少によってどんな問題が引き起こされるのか、ということです。
で、おそらくですが、多くの問題はお金に行き着くのではないかと思います。
どういうことかというと。
人々のためのインフラを整備するための財源である財政が割に合わない、ということです。
いままで人口がある程度いたところはインフラがそれなりに整備されています。
ここでいうインフラとは、ガス、水道、電気、道路そういった諸々の設備です。
インフラというものは、人々の生活の必需品になるので、一度整備したら撤去するのは難しくなります。
実際、一度引いた電柱が災害等で倒れてしまったら、電力会社はそれを復旧させる義務を負っているようです。
インフラを財源は税金です。
つまり、一度整備してしまったインフラを維持するには、それに見合った人口から得られる税収が必要になります。
人口が減少すると整備してきたインフラが維持できなくなってしまうのです。
では、そもそもインフラを維持しておく必要はあるのでしょうか。
使う人がいなければインフラを手放しても誰も困りません。
しかし、そう簡単に手離せないのが現実です。
これは私の田舎をみていて分かりますが、「人口の減少」と「人がいるエリアの面積の縮小」は必ずしも一致しないのです。
たとえばですが、それまで5人家族だった世帯が、そのうちの4人が都会に出ていき1人なったら、人口は減少しますが人がいるエリアの面積は縮小しないですよね。
この場合、行政はこの残った1人のためにインフラを維持しなければいけません。
でも、人口は5分の1に減っているので、財政の収支のバランスはとれないことになります。
これが、「人口減少が悪」とされている根本的な理由なのではないかと思います。
つまり、人口減少問題の根底には、全てお金の問題があるのです。
人口が減ること自体が悪いことではなく、人口が減ることで地方自治体のお金が足りなくなるのが問題だといえます。
若者を引き留めるのは誰得か?
そして、人口が減らないようにするために、若者を呼び込んだり、若者の流出を止めたりするための政策が打たれます。
この理由は単純で、労働人口がお金を稼いで税金を納めてくれるからです。
そのために若者が住みやすいように助成金を支給したり、賃金を上げたりする政策が打たれます。
でも、そういった政策は若者のためになっているのでしょうか。
もし、若者がいくらお金を詰まれようとも都会でやりたいことがあれば、それを止めるのは無駄な労力です。
もっというと、本当は都会でやりたいことがある若者に対して、お金や優遇制度をちらつかせて田舎に引き留めておくのは、若者の夢を潰してしまう可能性があるので、むしろやらないほうがいいかもしれません。
本来は田舎の環境に魅力を感じて「住みたい」と思ってもらうことを優先すべきです。
しかもその魅力はその田舎ならでは、の魅力である必要があります。
食材、気候、自然、そういった要素に魅力を感じていただけるなら人は集まって来るはずです。
なので、出ていきたい若者を引き留めようとするのではなくて、本当は田舎に住みたいけど様々なハードルを抱えている人たちに対して、そのハードルを取り除くための政策を打つのが自然な流れなのではないかと思います。
「来るもの拒まず去るもの追わず」の政策のほうが受け入れられるはずです。
地元企業に意識改革を求めても意味がない
もうひとつ違和感を感じるのは、若者を引き留めることを目的として、中小企業に対して、職場環境の改善を求めることです。
もちろん、働きやすい職場を作るのは良いことなのですが、それを行政側から中小企業に求めても、あまり効果は期待できないと思います。
というのも、そもそも企業は利益を追求する営利団体であり、政策を推し進める団体ではないからです。
若い人材を確保しないと人手不足になり、売上が上がらないから職場環境の整備を、という政策の理屈はわかります。
ですが、それを推し進める大義名分が人口減少問題の解消だったら、それは営利団体の役割ではありません。
ましてや、人材や職場環境に無駄な投資をしてしまっては本末転倒です。
たとえ若者を採用できたとしても、会社の利益に貢献してくれなければ、経営者は困ってしまいます。
もっというと、一企業が利益を稼ぐための手段として、若手の人材を確保することが必ずしも正しいとはいえません。
そもそも斜陽産業である場合は、早めに事業を縮小して、ミニマムな経営をしたほうが利益体質になる企業だってあるでしょう。
売上がいまいち上がらない原因が人材不足ではなく、商品の中身そのものにある場合は、職場環境を整えるよりも商品開発を見直したほうが得策です。
こうした様々な個別的問題を抱えている企業に対して、行政側から一辺倒で若手を集めるべきだと意識改革を求めるのはナンセンスです。
逆に、人材の定着率の低さや採用難が最優先課題である企業は、政策とは関係なくその必要性に気づき、自社独自で対策を推し進めるべきです。
まとめ
今回は、特に地方の人口減少問題について思うところをお伝えしてきました。
- 人口減少問題は、人が減ることが問題なのではなく、地方自治体のお金が足りなくなることが問題
- 都市部に出ていきたい若者を引き留めるのではなく、本当は田舎に住みたい人達がハードルに感じていることを解消すべき
- 個別的問題を抱えている企業に対して、行政側が一辺倒で若手を集めるべきだと意識改革を求めても意味がない