こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
少し前になりますが、スープストックトーキョーが話題になった件って覚えていますか?
離乳食の無償提供開始の発表を発端としてSNSが炎上した件です。
結果的に、スープストックトーキョーの神対応によって、むしろスープストックトーキョーの株(評価という意味で)が上がりました。
で、何が秀逸だったのか、というと、企業理念に基づいて判断を下し、SNS上の賛否両論に毅然とした説明をした、ということです。
しかも、誰も傷つけることなく、です。
何が言いたいのかというと、ここに、これからの時代に企業が生き残っていけるヒントが隠されているのではないか、ということです。
「いまのところうちは稼げているから安泰」とか、「商品自体は一級品だからお客さんや取引先からの信頼は厚い」とか、と感じていらっしゃる経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
が、今後企業が生き残っていくためには、こういった儲けの大きさや商品のクオリティ以外の条件も重要になっていると考えています。
ということを、今回はスープストックトーキョーの一件を題材にしながらお伝えしていきます。

スープストックトーキョー事件
あらためて、スープストックトーキョーの件を振り返ってみます。
事の発端はスープストックトーキョーが離乳食の無償提供をはじめると発表したことでした。
これに対して、家族連れや子どもをよく思わない人達が、SNS上で「店がうるさくなる」とか「物乞い家族が増える」とか発言して、まあ汚い言葉が飛び交いました。
そして、それに反発する人達が登場してお互いを罵り合い、炎上したんですね。
で、その炎上から約1週間後にスープストックトーキョー側から声明文が発表されました。
結果的にその声明文が秀逸で見事炎上を鎮静化したわけですが、そもそも、企業活動として何を無償提供するのかはその企業の自由であり、反対される理由はありません。
「店がうるさくなる」と思えば、うるさくないお店を探せばいいだけなので。
もちろん、結果的にスープストックトーキョーは無償提供を開始し、続けています。
ですので、そういった難くせを鎮めるために声明でスープストックトーキョーは何を伝えたのか、がポイントになるわけです。
声明文で語られた企業理念
声明ではまず、騒動がはじまってから1間程度発言を控えていた理由について、「私たちの存在意義について思いを巡らせ、考えを深めていたから」と説明しています。
その直後に、語られているのが企業理念。
スープストックトーキョーの企業理念は「世の中の体温をあげる」で、「スープという料理を通じて身体の体温をあげるだけではなく、心の体温をあげたい」という願いを込めているようです。
そのあとに、その理念のもとに積み上げてきた過去の取り組みを紹介し、この騒動に対する会社として姿勢を示す、という流れになっています。
ここからは私の解釈も入りますが、今回のスープストックトーキョーの判断や行動は、企業理念が軸になっている、といえます。
前々からお伝えしている、理念は経営の判断軸、ということを体現されていますね。
で、声明文の流れ的に、存在意義について想いを巡らせたうえでの企業理念の説明、になっているので、スープストックトーキョーにとっての企業理念は存在意義をあらわしている、といえます。
つまり、スープストックトーキョーは「世の中の体温をあげる」ために存在している、ということです。
別の言い方をすれば、「なぜ事業をしているんですか?」という問いに対する答えであり、スープストックトーキョーが事業活動を通じて永久に追求していく使命、ともいえます。
個人的に、注目すべきだと考えているのは「世の中」を対象にしていること。
「世の中」なので、お客様を年齢や性別、子連れかどうかで区別することなく、その全員の体温を上げることを使命としていると理解できます。
そうすると、離乳食の無償提供も、小さい子どもの体温を上げてその親の心の体温も上げる、という使命を全うするための施策の一環だと考えることができますね。
こうやって変なアンチを敵にまわすことなく、結果的に、騒動を収めることができています。
何が言いたいのかというと、今回の対応は、「世の中」の人を事業を通じて幸せにしている、と伝えていることがポイントだということです。
鍵はステークホルダー資本主義
スープストックトーキョーが体現しているのは、ある意味ステークホルダー資本主義、といえます。
ステークホルダー資本主義とは、企業に関わる全ての人(お客様、社員、株主、取引先、地域社会など)の幸せを大切にする考え方です。
これに対応する考え方は、株主中心主義と呼ばれています。
株主中心主義とは、株主に対する金銭的なリターンの最大化を大切にする考え方です。
中小企業の場合は、経営者=株主であることがほとんどなので、経営者や会社の利益を最大にする考え方、ともいえます。
そして、時代の流れは株主中心主義からステークホルダー資本主義に移り変わってきていると言われてるんですね。
そう言われる背景を話し始めると長くなるので、その辺りは詳しい本に任せるとして、それを差し置いても今回のスープストックトーキョーの件は、時代的にステークホルダー資本主義が求められていることを証明しています。
なぜそういえるのかというと、「世の中」の人を事業を通じて幸せにしていること、を拠り所として、離乳食の無償提供を正当化しているからです。
「世の中」はまさにステークホルダーを意識した言葉ですよね。
そして、ステークホルダーをどのようにして幸せにするのか、を言葉にしたものが「世の中の体温をあげる」という企業理念になっているといえます。
ここで思い出したいのは、「無償だから文句を言わないでください」、とか、「スープは美味しい自信があるので方針は変えません」といった趣旨の発言は皆無だったということです。
ふつう、自分たちが良かれてと思って無償提供した商品やサービスが、理不尽な批判を浴びたらそう言いたくなりませんか?
でももし、そういう声明を出したとしたらどうなっていたか。
仮の話なので、なんともいえませんが、「貧困ビジネスだ」とか、「美味いかどうかは客が決めるんだ」とか、そういう批判が再燃してしまう光景が目に見えます。
何が言いたいのかというと、お金がどうとか、商品の良し悪しがトラブル解決の糸口にはならないということです。
今回の件は、そうではなく、ステークホルダー資本主義を意識した企業理念の訴えが、世間から評価されたといえます。
これに関してはTwitterで同じようなことを言っているのですが、140文字以内でまとめるとこのようになります。
要するに、株主中心主義の時代だと、商品のクオリティが高かったり、他社と比べてお手頃な値段設定をしたりすることで、結果的に株主や自社が儲かっていれば、企業は存続できていました。
でも今の時代は違います。
企業に関わる人をこういうふうに幸せにしたい、というメッセージ(企業理念)をはっきりと言語化し、それを伝えていく必要があるということです。
そして、伝えるだけではなく、メッセージ(企業理念)と実際の行動が一致していることが重要です。
そこがちぐはぐだとむしろ信用を失ってしまいます。
スープストックトーキョーはこの点をフォローするためにしっかりと過去の取り組みも説明しているわけです。
トラブル対処で頼りになる理念の作り方
今回、スープストックトーキョーで起こった出来事が、他の会社でも起きないとは限りません。
社員がトラブルを起こせば、それが良かれと思ってやったことであっても、SNSで炎上してしまう可能性はじゅうぶんにあります。
ましてや、そのトラブルの落ち度が会社側にあったらなおさら大変なことに。
ですので、トラブルが起こったときに拠り所になる企業理念を明確しておくことが重要です。
ちなみに、スープストックトーキョーが存在意義としている企業理念は、私の定義でいうと「ミッション」になるという解釈です。
ミッションの定義はこちらのとおり。過去の記事でも何度か紹介しています。
ミッション:
企業の使命や目的。企業の存在価値そのもの。企業が事業を行う大義名分ともいえる。経営者が事業を通じ一生をかけて追求するもの。
企業理念にはその他にも、ビジョン(理想の姿)とバリュー(価値観、行動指針)がありますが、ミッションはその中でも簡単には曲げられない性質をもっています。
ですので、ミッションは基本的に一度掲げたら変わるものではありません。
そして、ミッションがトラブルのときに効果を発揮するのは、企業が本来やるべきことに立ち返ることができる言葉だからです。
SNSや世間の難くせや言いがかりに、正当性をもって対応できる根拠がそこにあります。
だからこそ、最後にお伝えしたい今回の最大のポイントは、ミッションをステークホルダー資本主義にもとづいて言葉にすべきだ、ということです。
単に儲けるとか、こんな素晴らしい商品をつくる、とか、自分達を主語にするのではなく、社員、お客さん、そして周りにいる社会の人がこんなふうに幸せになる事業をする、という言葉をミッションに掲げていただければと思います。