こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
eBayといった越境ECを可能にするマーケットプレイスでは、個人が輸出販売事業(いわゆる「輸出せどり」)を簡単にできるようになりました。
海外から輸入して海外に輸出するケースもあれば、国内で仕入れて海外に輸出するケースもあります。
で、このような事業をしている事業者に大きく関わりがあるのは、消費税の還付。
言わずもがなですが、還付を受けられるのなら受けたほうがいいのに越したことはありません。
ただ、手続きが少し面倒。
プラスアルファで、還付を適切に受けるためには今年(2023年)の10月から始まるインボイス対応もしっかりしておかなければいけません。
消費税の還付自体、正しく申告していれば全く問題ないものではありますが、税務調査の目も厳しくなっていますので、正しい知識を身に着けておきましょう。
ざっと還付の仕組みをおさらい
前提知識として、なんで還付を受けられるのか、ということ解説していきます。
まずが基礎から、ということで、輸出ではなく通常の国内の取引での取り扱いを説明します。
基本的には、事業者が売り上げたときに消費税を預かり、仕入れや経費を払うタイミングで消費税を払うシステムになっています。
そして、事業者が国に納税する消費税額は、預かった消費税から支払った消費税の差額です。
消費税の納税額=預かった消費税ー支払った消費税
この算式がプラスであれば納税、マイナスであれば還付を受けることになります。
普通のビジネスであれば、売上の価格のほうが仕入れの価格より大きく、どちらも税率は同じなので、預かった消費税のほうが大きくなります。
つまり、上の算式はプラス(納税)になって、マイナス(還付)になることはありません(仕入れるだけで全く売れない場合は別として)。
いっぽうで、輸出の場合は、売り上げたときに消費税を預かる必要がないんですね。
たとえば、秋葉原のフィギュアショップでフィギュアを仕入れて、eBayのようなECサイトでアメリカに住むコレクターに輸出するとします。
収入/費用 | 消費税 | |
売上 | 10万円 | |
仕入 | 5万円 | 5千円 |
差引 | 5万円 |
この表のとおり、通常の国内取引であれば売り上げたときに10万円×10%=1万円の消費税を預からないといけないのですが、輸出だとこれを預からなくていいので、結果的に5千円の納付が5千円の還付になります。
これが輸出せどりビジネスの消費税還付の仕組みです。
ちなみに、上の例では仕入れ先は国内(秋葉原)でしたが、海外から輸入の場合も基本的には同じです。
還付を受けるための条件(インボイス開始後)
そして、消費税の還付を受けるためには、輸出取引を行っていることに加えて、一定の条件が整っていなければいけません。
その条件(2023年10月以降のインボイス制度開始後)とは
- 消費税の課税事業者で、申告義務がある
- 支払った消費税を証明するインボイスが適切に保存されている
- 簡易課税制度や2割特例を選択していない
ことです。
③は、選択の制限がかかっていない限り、申告のときに注意すればいいので、問題は①と②です。
(越境ECビジネスをしている方で簡易課税の選択をしている方はいないとは思いますが、もし、選択をしている場合はその選択を取り下げる必要があります。)
① 消費税の課税事業者で、申告義務がある
基本的に2年前の売上が1,000万円以下の場合や起業初期の段階では、免税事業者なので、消費税の申告・納税義務はありません。
でも、還付を受けるためには申告をしなければいけないという条件があるので、わざわざ課税事業者になる選択をしないといけない、ということになります。
この課税事業者になるための手続きがやっかいで、選択するための届出を出したらすぐに課税事業者になれる、というわけではないことに注意が必要です。
下手をしたら、まるまる1年後の取引からしか還付を受けられないこともありえます。
ただし、インボイス制度開始の影響で、インボイス登録事業者になって課税事業者になる場合は、希望日から課税事業者になれる、という経過措置もあります。
その代わり、インボイスの対応をする必要がありますが。
少しややこしくなってしまいましたが、いずれにしろ課税事業者になるためには届出を出さなければいけない、ということは覚えておいていただければと思います。
② インボイスが適切に保存されている
消費税の還付を受けるにあたっては、仕入れ先からインボイスを入手して、適切に保存しておく必要があります。
先ほどのフィギュアせどりビジネスでいうと、秋葉原でフィギュアを買ったときに、お店が発行するインボイスを入手して保存しておかないと、支払ったはずの5千円が、支払った消費税として認められない、ということになります。
つまり、自分ではなく仕入れ先がインボイス登録事業者かどうかがポイントになってくる、ということです。
なので、たとえば仕入先が秋葉原のお店ではなく、メルカリやミンネなどを使って、一般の個人から仕入れるときには影響が出る可能性があります。
いままでは、その個人に払う消費税相当分は、支払った消費税として認められていました。
が、その個人がインボイス登録事業者でなければ、インボイス開始後はそれが認められなくなる、ということです。
その分、輸出せどりビジネスをする事業者にとっては、せっかく払った消費税相当分が還付されなくなるので、税務上は不利になる、といえます。
そして、入手したインボイスの保存要件も適切に満たさなければいけませんし、そのインボイスが本当に認めらるインボイスか確かめないといけません。
仮に、「インボイスなくしちゃった」という場合も還付を受けられなくので要注意です。
(もう少しややこしい話をすると、来年2024年1月から始まる電子帳簿保存法との関係性もありますが、分かりやすさ優先で省略します。)
ちなみに、仕入れが海外、つまり輸入をしている場合はインボイス改正の影響はあまりありません。
いままでどおり、輸入に係る申告書を適切に保存しておきましょう。
自分のインボイス登録はどうすればいいか?
先ほど、還付を受ける場合、「自分ではなく仕入れ先がインボイス登録事業者かどうかがポイント」と伝えましたが、越境ECビジネスの事業者が、自分のインボイス登録を全く検討しなくていいのか、というとそうともいえません。
基本的には以下のケースに当てはめて考えていただければと思います。
売上構成 | インボイス登録の検討 |
売上が、輸出のみ | 必要ない |
売上が、輸出+国内の事業者向け | 必要あり |
売上が、輸出+国内の一般個人向け | 必要ない |
売上が、輸出+国内の事業者と一般個人向け | 必要あり |
輸出のみであれば、購入者(外国人)が日本の消費税を払うことはないので、その購入者(外国人)からインボイス登録を迫られることはないでしょう。
また、国内に販売していても、一般個人向けであれば、その個人が消費税の申告をすることはありませんので、インボイス登録を考える必要はありません。
いっぽうで、輸出と合わせて国内の事業者にも販売していたらインボイス登録を要請される可能性があります。
いわゆる国内BtoBですね。
たとえば、外国から商品を輸入して、輸出に加えて国内のお店に販売していたら、国内BtoBになります。
そこまでの規模でせどりビジネスをしている方は少ないかもしれませんが、逆にひとつの取引先との取引量が大きいため、こちら側がインボイス登録していないから価格交渉される、ということになったら痛手になります。
まとめ
今回は、輸出せどりビジネスをする事業者が消費税の還付を受けるために必要な手続きと、インボイスの影響をお伝えしました。
ポイントは次のとおりです。
- 起業初期や小規模の段階から還付を受けるためには一定の手続きが必要
- インボイス制度開始後に還付を受けるためには、仕入れ先のインボイス登録状況の確認と、自社でのインボイスの保存が必要
- 自分のインボイス登録は売上の構成によっては検討が必要
もし、個別具体的に、
・自分は還付を受けることが可能か?
・自分はどれくらいの還付を受けることができるか?
・自分がやっておく税務手続きはなにか?
といった相談が必要であれば、こちらでマンツーマンで相談対応していますので、ぜひ活用していただければと思います。