こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
地域医療の過疎化が問題視されるなか、街のクリニックの「事業承継」は避けて通れない重要なテーマです。
ただこの承継というプロセスには後継者不足という構造的な問題と、相続税・贈与税という税制上の大きな壁が立ちはだかることになります。
後継者の絶対数が少ないのが承継の最大の課題ではあります。
でも、それなら尚更、せっかく後継者候補がいるのに税負担で後継者が承継を敬遠してしまうことはあってはならないというのが僕の考えです。
それこそ貴重な人的資源を無駄にしてしまいますので。
日本の税制上厄介なのは、承継する(引き受ける)側が税負担を負うシステムになっていることです。
だから後継者を中心にタックスプランニングを考えて必要があるのです。
本記事では具体的な税金対策の前に、なぜそれが必要になるのか、について社会的な構造と日本の税制ルールの基本を開設しています。
「事業承継税制」や「認定医療法人制度」といった具体的な制度活用をする前に、基礎知識をこの記事で習得していっていただければと思います。
地域医療の危機:後継者不足という現実
まず、事業承継の議論の前提として、現在の歯科医療業界が直面している深刻な問題、すなわち「後継者不足」とそれに伴う「地域医療の危機」がどんなレベルなのか、僕の経験談に基づいてお話しします。
歯科医院の高齢化と後継者不在率の深刻さ
日本の歯科医師の高齢化は進行しており、多くの医院で事業承継が喫緊の課題となっているのは僕が言うまでもなく。
場所にも依りますが、地方では人口減少スピードより医院の閉院スピードが早い状況が常態化しているというのが僕の認識です。
地方で開業すれば患者さんがどっと押し寄せる、なんて話はザラに聞きます(歯科医院の経営が楽だと言いたいわけではなく、地方の需要と供給のバランスの話です)。
もっと極端なのは、患者さんを抱えきれない医院さんが、近隣に新規開業医院を呼ぶための土地を買い、若い先生を招聘してなんとかして患者分散を図っているケースもあります。
もちろんこの「人口減少スピードより医院の閉院スピードが早い状況」がいつまで続くのかは、そのエリアの人口動態と歯科医院の供給数をみなければ断定はできません。
ただ人口の高齢化が進み、総人口に対する生産年齢人口の割合が減り続けることはほぼ確実に予測されています(公的な調査はこちらから)。
なので上述したような極端なケースは別として、既存の医院では解決できない医療供給不足の問題をあの手この手で打開しようとする医院さんが今後増えてくることは容易に想像できます。
さらにこれに拍車をかけているのが経営の難易度が上がっている点です。
医療的な側面は置いておいて、材料や設備、内装費は爆上がりしていて「従前のように診療をやっていれば安泰と言う時代ではなくなった」という話はよく聞きます。
承継し経営者になってもその旨みは薄く、逆にマネジメントや資金繰りによるストレスが増えるなら、雇用や外部委託を選択する方が増えてきているのが事実かと思います。
地域医療過疎化と歯科医院の閉院・廃業の増加
後継者が見つからない場合、最終的に医院は閉院や廃業を選択せざるを得ません。
近年、歯科医院の倒産・休廃業件数は増加傾向にあり、特にユニット3台以下の小規模な個人歯科医院や、高齢の歯科医師が経営する医院でその傾向が顕著なのは火を見るよりも明らかで。
都市部では競争激化による淘汰が進む一方で、地方や過疎地域では、医院の閉鎖がそのまま地域住民の歯科医療へのアクセスを奪うことにつながり、地域医療過疎を深刻化させています。
蛇足になりますが、その話でいえば過密地域での新規開業の抑制や、地方開業へのインセンティブが中医協で検討されているところです。
さらにいえば地域別に診療報酬に差を設けるような仕組みがいつ導入されてもおかしくない状況ではあります。

事業承継の可能性を守ることが地域医療確保への第一歩
地域医療の維持という観点からも、歯科医院の事業承継は、できる限りその可能性を潰さないことが重要だと思っています。
全ての医療機関を残すことは無理ですし、それを望んでいない医院もあるでしょう。
でも後継者もしくは後継者候補がいるのなら、そのバトンタッチを成功させる努力が必要なのではないかと。
この重要なバトンタッチを阻む最大の要因の一つが、次で解説する「税金」の問題です。
事業承継の「壁」:相続税・贈与税の基本と課税の仕組み
事業承継を考える上で、まず理解しなければならないのは、日本の税制における相続税・贈与税の基本ルールです。
この基本ルールを知ることで、なぜ税金対策が「必須」となるのか、その理由が見えてきます。
事業承継は「財産の移転」
事業承継とは、税務上は「財産の移転」と見なされます。先代経営者から後継者へ、事業用資産や持分が移る際、その財産の価値に対して相続税(先代の死亡による場合)または贈与税(生前の場合)が課税されるのが基本です。
何に対して、どういう目的で課税されるのかというと、それは「富の再分配」という目的のもと、「個人が財産を無償で取得したこと」に対して課税される、という基本ルールがあるのです。
課税対象となる財産の範囲
この課税の対象になるのは、現金や不動産や金融資産はもちろん、特に医療法人において問題となるのが「出資持分(およびそれに紐づく払戻請求権)」です。
持分のある医療法人の出資持分は、法人が設立以来積み上げてきた内部留保(利益の蓄積)を反映して評価されます。長年の経営努力で利益が溜まっていればいるほど、この出資持分の評価額は高騰します。
つまり代替わり時に先代から譲り受ける法人に溜まっている利益が大きければ大きいほど、出資持分にかかる相続税・贈与税の税負担は重くなります。
これが要因となり後継者が医院を承継し、地域医療を継続していくための大きな足かせとなります。
廃業しても課税は避けられない
「承継が難しいなら、いっそ廃業してしまおう」と考える経営者もいらっしゃるかもしれません。
しかし、承継せずに廃業の道を選ぶ場合であっても、蓄積されてきた利益(財産)に対して課税されるため、基本的には税金を避けることはできません。
個人医院であれば、廃業時の売却益や相続時の財産評価で課税されます。
持分のある医療法人であれば、その持分所有者は相続時に持分や払戻請求権が課税対象になります。
つまり、どんな道を選んでも基本は税金を避けることはできません。
これが、出口戦略において税金対策が「必須」となる根本的な理由です。
税金を負担するのは後継者、制度を使うのも後継者
先代より後継者のほうが承継に対する税金の心配をするのは、承継時にかかる税金の納税義務者が後継者だからです。
よく考えてみたら分かるかと思いますが、担税力(税金を払う力)があるのは財産を取得する後継者ですよね。
でもですよ。
今後医院を運営していくにあたって、何千万何億というお金が一気に出ていくと医院運営に支障が出るのはいうまでもなく。
昨今のインフレを加味するとなるべく手元資金は厚くしておきたいところです。
そこで事業承継を円滑に勧められるように国が制度を用意しているわけです。
具体的にいえば事業承継税制や認定医療法人制度がそれになります。
これらの制度は要件がそれぞれ存在し、何が最適かはそれぞれの事情によります。
でも自治体に対して事前申請や計画の提出が必要になることが基本です。
なので承継のタイミングが見えてきたら、できるだけ早く検討をはじめておきましょう。


