はじめに
こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
経営者さんと資金繰りの話をしているときに、
「減価償却費って節税になってトクをするの!?」
とよく聞かれます。
実はこの考え方は、個人的には結構危険で。。。
減価償却費をおトクな経費だと勘違いしている方が結構いそうなので、このブログ記事で解説していきたいと思います。
簿記の勉強をしていない一般の方はあまり馴染みのない会計用語ですが、会社のキャッシュフロー(お金の流れ)を適切に把握するためには必須の知識です。
ざっくり、お金の流れを解説
まずは、減価償却費の性質を把握する前に会社のお金の流れを俯瞰しましょう。

上の図を使って、左から順番にお金の流れを解説をします。
- 売上は文字どおり売上であり、本業の収入です。
- 変動費は、基本的に売上(正確には販売数)に比例して増減する費用で、業種によって中身は異なります。
(たとえば、コンビニなどの小売業であれば商品の仕入れが該当しますし、製造業であれば原材料の仕入れや外注加工費も変動費に該当します) - 売上から変動費を引いたのが粗利です。別名付加価値額ともいいます。
参考情報として、付加価値額の解説についてはこちらの別記事で紹介しています。

- 固定費は変動費と逆で、売上の増減に関わらず基本一定でかかる費用をいいます。
上の図では人件費とその他固定費に分けています。
その他固定費は水道光熱費、税理士報酬、地代家賃などが該当します。 - そして、粗利から固定費を引いたものが利益です。
上の図は経常的な取引のお金の流れを表していますので、この利益は損益計算書でいう経常利益と一致すると思っていただいて大丈夫です。
減価償却費が加わるとどうなるか?
では次に、上の図に減価償却費20が加わるとします。
厳密なルールはありませんが、減価償却費はその他固定費に分類されることが多いため、その他固定費が30から50に増加すると仮定しましょう。
そうすると、上の図はこのように変化します。

見ていただいてわかるとおり、上の図では粗利80より固定費90のほうが大きいため、利益ではなく損失が10発生してしまっています。
ただ、ここが肝心なところですが、減価償却費は「お金の支出を伴わない費用」なので、お金の増減を確認するうえでは費用に含めず、キャッシュアウトはなかったことになります。
これをもう一度図するとこのようになります。

なぜキャッシュアウトをなかったことにするのか、という理由は次の項目で説明するのでご安心ください。
ここで理解していただきたいのは、損失▲10と減価償却費の足し戻し20とを相殺すると、キャッシュフローは+10になるということです。
なお、掛け売上、掛け支払による発生と支払いのタイミングのズレや税金や借入返済などは、説明の便宜上省略していますので、その点はご了承ください。
減価償却費はトクをする、の正体
「なぜ減価償却費は費用なのに足し戻すんだ(キャッシュアウトをなかったことにするんだ)」というツッコミが入るかと思いますので、ここからはその理由を解説していきます。
これが減価償却費の特殊性であり、今回のメインテーマです。
また例を使って解説していきます。
たとえば、100万円の車を一括現金で買ったら、キャッシュアウトはその購入時点で発生します。
ですが、車が費用になるのはその買ったタイミングではなく、使用期間(専門用語で耐用年数といいます)にならして費用になっていきます。
仮に車の使用期間を5年とすると、100万円÷5年で毎年20万円ずつ費用になるイメージです。
(あくまでイメージです。厳密な減価償却費の計算は個々に検討する必要があります。)

つまり、資産を買ってお金を支払うタイミング(お金の動き)と会計上費用になるタイミングが異なる、というのが減価償却費の特殊性です。
この特殊性があるから、毎年の減価償却費20はお金を支払わずとも費用として計上されることになります。
で、そうなると減価償却費はお金を払っていないのに費用になるのでおトクな気もしますが、決してそうではありません。
説明するまでもないですが、買ったときに購入代金(上の例で言うと100万円)をきっちり支払っていますよね。
1年目を図にするとこのようになります。

- 減価償却費20はキャッシュアウトがないので足し戻すとキャッシュフロー(CF)は+10
- ただし、1年目は100の車を購入しているので、▲100がキャッシュアウトする
- 両者を相殺すると最終CFは▲90
となります。
つまり、2年目以降の減価償却費だけみて「お金を払っていないのに費用になるのはトクだ!」となるのは危険で、しっかり1年目(分割払いなら2年目以降も含む)でお金は払っているので、何らトクをする費用ではないということを知っておいていただければと思います。。
減価償却費と財務戦略
先ほども紹介したこちら(下記参照)の図の状態のときに「経常利益がマイナス(経常損失)でも、減価償却費を足し戻したキャッシュフローがプラスならまあいいか」と思いたくなるかもしれません。

ただ、これにはいくつかの落とし穴があります。
経常利益のマイナスは融資評価に悪影響
まず気をつけなければいけないのは、融資の場面です。
というのも、金融機関が会社を評価するにあたって損益計算書で注目するのは経常利益だからです。
金融機関は経常利益で会社の本業で稼ぐ力をを評価しています。
特に、製造業などは多額の設備投資があり、経常利益が若干マイナスでもそのマイナス分を上回る減価償却費があることがありますが、それに安心していてはいけないということです。
減価償却費で利益の操作はバレる
そうすると、経常利益をマイナスにしないために減価償却費を減らして固定費を削減しよう、という心理が働くかもしれません。
これに関しては、非常にややこしいのですが、厳格な会計基準が適用されない中小企業はそれができてしまいます。
なので、減価償却費を全く計上しないことも理論上は可能です。
しかしここには落とし穴があります。。
減価償却費が少ないことは、会計に携わっている人間が申告書や決算書をみれば一発でわかるということです。
特に金融機関の担当者に対して、減価償却費を少なく抑えて利益が出ているように見せる行為は、金融機関からの評価を下げてしまう恐れがあります。
ですので、理論上はともかく特段の理由がない限りは、使用期間(耐用年数)にわたって毎年減価償却費を計上することをおすすめします。
おわりに
繰り返しになりますが、減価償却費はお金を払わずとも経費になるような魔法の費用ではありません。
ただ、減価償却費が将来にわたっていくら・どれくらいの期間計上されるかを知っておけば、キャッシュフロー視点で経営を考えることができるでしょう。
減価償却費がよく分からなくて苦手だ、という方はこの記事で攻略していただければと思います。
