【note】税理士のアタマの中

事業計画書の”創業の動機”の書き方〜歯科医院のビジョンより大切なこと〜

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こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。

歯科医院の開業を決めたら、多くの方がまず向き合うのが融資の問題です。

そして融資を受けるために必要になるのが事業計画書。

その中でも創業の動機や理由の欄は、最初に目に入る項目でありながら、いざ文章で書こうとすると筆が止まる方も多いのではないかと。

「地域に根ざした歯科医療を提供したい」「患者さんに寄り添った丁寧な診療を行いたい」——こうした言葉はよく見かけますが、もうちょっと自分らしい文章を綴りたければ、ぜひこの記事を読み進めてください。

もちろん、ビジョンを伝えること自体は間違いではありません。

ただ、銀行の融資担当者はこうした文章を年間に何十件、何百件と読んでいます。
きれいにまとまったビジョンだけでは、正直なところ印象には残りづらいのです。

では、どうすれば融資担当者の心に残る創業の理由が書けるのか。

答えはシンプルです。

「あなたしか語れない過去の原体験」を書くことです

目次

「未来の話」は書きやすいが信頼性はない

事業計画書の創業の理由に、多くの先生が書くのは未来の話です。「こんな医院を作りたい」「こんな医療を届けたい」。これはビジョンであり、もちろん大切なことです。

しかし、ビジョンには一つ弱点があります。それは検証ができないということです

「患者さん一人ひとりに寄り添う医院を作ります」と書いてあっても、融資担当者にはそれが本気の言葉なのか、なんとなくそれらしいことを書いただけなのか、判断する材料がありません。

悪く言えば、ビジョンは絵空事にもなり得るのです。誰でもきれいな未来を語ることはできます。

一方で、過去の情報は事実です。

実際に経験したことであり、嘘をついていない限り、誰にも否定できません。

つまり、過去の情報には「事実である」という裏付けがあり、それがそのまま信頼性になるのです。

融資担当者が目的や動機を通じて知りたいのは、開業に至る正当性です

現代では開業の難易度は上がる一方で、勤務医の待遇は良くなるばかりだからこそ、わざわざ開業する真意を知りたいのです

きれいなビジョンよりも、実際にあった出来事のほうが、その問いに対する説得力を持ちます。

銀行マンの感情を動かせ

融資の審査というと、数字とロジックだけの世界だと思われがちです。もちろん、収支計画や返済シミュレーションは重要です。それは大前提です。

しかし、忘れてはいけないことがあります。融資の判断をするのは人間だということです。

銀行の融資担当者も一人の人間です。日々たくさんの事業計画書を読む中で、「この人を応援したい」と思う瞬間があります。それは数字が完璧に揃ったときではなく、その人の想いという一次情報に触れたときです。

勤務医時代に何を経験し、何を感じ、何に悩み、だからこそ自分の医院を持ちたいと思った——そういう血の通った言葉は、読む人の感情を動かします

今の時代、AIを使えばいくらでもそれらしい文章を作ることはできます。実際、融資担当者もそれは分かっています。

型にはまった「いかにも」な文章は見飽きているのです。だからこそ、あなたにしか書けない言葉、あなた自身の経験から出てきた言葉に価値があります。

どんな「過去情報」を書けばいいのか

「原体験を書きましょう」と言われても、何を書けばいいのか迷う先生もいらっしゃると思います。難しく考える必要はありません。以下のような問いを自分に投げかけてみてください。

勤務医時代に強く心に残った感動や葛藤はありますか。

たとえば、治療が完了して「先生に診てもらえてよかった」と言われた経験。あるいは逆に、自分が理想とする治療を提供できなかったもどかしさ。組織の方針と自分の信念の間で葛藤した経験。

こうしたエピソードは、すべて開業の動機につながり得るものです。

師事した先生から受けた影響はありますか。

勤務先の院長の診療姿勢や医院経営に感銘を受けた経験があれば、それも立派な原体験です。「あの先生のように、自分も患者さんと長期的な関係を築きたい」という動機には具体性と説得力があります。

反対に勤務医時代の組織にロールモデルがいなかったから独立を決意した、という方は、勤めていた医院を批判しないまでも自分は他人とはここが違う、ということを伝えられるエピソードは大きな武器になります。

歯科医師を志した原点に立ち返れますか。

学生時代に歯科の道を選んだ理由まで遡ってもかまいません。家族の歯科体験がきっかけだった、自分自身が子どもの頃に歯科で怖い思いをしたから患者さんに寄り添いたいと思った——こうした個人的な記憶は、あなただけのものです。

大切なのは、「立派なエピソード」を探す必要はないということです。些細に思える経験でも、あなたの言葉で語れば、それは唯一無二の動機になります。

書いた言葉は「口頭」でも伝えてください

事業計画書に過去の原体験は書いて満足するのは勿体無いです。

銀行との面談の場面では、書類を渡して終わりではなく、自分の口で直接伝えることを強くおすすめします。

理由は文字で読むのと、耳で聞くのとでは、感情の伝わり方がまったく違うからです。

文章はどうしても情報として処理されます。しかし、声には感情が乗ります。語るときの表情、間の取り方、声のトーン。そうした非言語の情報が加わることで、同じ内容でも伝わり方が格段に変わります。

融資面談の場で、事業計画書に書いた創業の動機について「少しお話しさせてください」と前置きして、自分の原体験を語ってもいいでしょう。

暗記する必要はありません。
自分の経験を自分の言葉で語れるようにしておく。それだけで十分です。

過去情報は事業計画書だけでなく、あらゆる場面で使える

ここまで融資の話を中心にしてきましたが、実は、事業計画書に書いた過去の原体験は、開業後もさまざまな場面で活きてきます。

ホームページや広告の紹介文に使えます。

医院のホームページには「院長紹介」のページがあります。ここに「丁寧な診療を心がけています」とだけ書かれている医院と、「勤務医時代にこんな経験があり、だからこの医院ではこういう診療を大切にしています」と書かれている医院。患者さんの目にどちらが魅力的に映るかは明らかです。原体験に基づいた紹介文は、他院との差別化にもなります。

スタッフに医院の理念を伝えるときの素材になります。

開業後、スタッフを採用し、チームを作っていくことになります。そのときに「うちの医院はこういう方針です」と抽象的に伝えるのと、「自分にはこういう経験があって、だからこの医院ではこれを大切にしたい」と伝えるのとでは、スタッフの理解と共感の深さが変わります。理念というものは、背景にあるストーリーがあって初めて、本当の意味で人に伝わるものです。

つまり、事業計画書のために自分の過去を振り返り、言葉にする作業は、融資を通すためだけのものではありません。

開業後の医院経営全体を支える土台になる
のです。

現代の歯科医院はどこも人手不足なので、他の医院がやっていないことをいかに丁寧にやっていくかが、そのまま採用の増加や離職率の低下につながります

ビジョンを否定しているわけではない

念のため補足しておきますが、「未来のビジョンを書くな」と言いたいわけではありません。ビジョンは大切です。「自分はこういう医院を作りたい」という未来像があるからこそ、開業という大きな決断ができるのですから。

お伝えしたいのは、ビジョンだけでは足りないということです。

未来のビジョンは「行き先」です。過去の原体験は「出発点」です。行き先だけを示されても、なぜその方向に進むのかが分かりません。出発点があって初めて、行き先に向かう道筋に必然性が生まれます。

勤務医時代にこういう経験をした(過去)。だからこういう医院を作りたいと思った(未来)」。この二つが揃ったとき、創業の理由は一本の筋が通った、説得力のあるストーリーになります。

まとめ:過去にはあなただけの説得力がある

事業計画書の「創業の動機」欄は、融資担当者が最初に読む項目の一つです。ここで「この人の話をもっと聞きたい」と思ってもらえるかどうかは、その後の面談の雰囲気にも影響します。

きれいにまとまった文章よりも、あなたの実体験から出た言葉のほうが人の心に届きます。勤務医時代の何気ない出来事、患者さんとのやりとり、先輩から学んだこと、自分が悔しいと思った瞬間。そうした記憶の中に、あなたが開業する本当の理由があるはずです。

ぜひ一度、時間をとって自分の過去を振り返ってみてください。そして、思い出したエピソードを事業計画書に書いてください。書いたら、面談の場で自分の声で語ってください。

その言葉は、融資を通すためだけでなく、ホームページにも、スタッフへの理念共有にも、そしてこれから先、迷ったときに立ち返る原点にもなります。

あなたの過去には、あなただけの説得力があります。

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