こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
いま話題のChatGPT。この高度な人工知能チャットボットを使えば経営理念も策定できてしまうのではないか、ということを思いつかなくもないでしょう。
今回はChatGPTの活用を想定したときに、経営理念の策定で大切にしなければいけないことを考えていきたいと思います。
ChatGPTに聞いてみた
物は試し、ということでさっそくChatGPTに、「経営理念を作りたい」と質問してみました。
返ってきた答えはこちらです。
- 企業のビジョンを明確化する
ビジョンは、将来の企業の姿を描いたものであり、経営理念の基盤となります。企業が目指す将来の姿を具体的にイメージし、その方向性を示すことが重要です。 - 企業の価値観を定義する
企業の価値観は、社員やお客様との接点において、企業が何を大切にするかを表したものです。企業文化の根幹をなすため、社員が共感できる価値観を明確にすることが大切です。 - 企業の使命を考える
企業の使命は、企業が存在する意義や目的を表したものです。企業が何を目指し、何を成し遂げたいのかを考え、それを明確に定義することが必要です。 - これらを統合し、経営理念を作成する
ビジョン、価値観、使命をもとに、企業がどのような経営を行い、どのような存在でありたいのかを総合的に考え、経営理念を作成します。
経営理念は、企業の方向性を示すものであり、社員やお客様、株主などステークホルダーに向けて示すことが重要です。また、経営理念を明確に定義することで、企業の取り組みに一貫性が生まれ、社員のモチベーション向上や企業イメージの向上につながります。
やはり、非常に答えの精度が高いです。ちゃんと、経営理念がビジョン、価値観(バリュー)、使命(ミッション)の3要素から構成されている、ということがわかり、我々の認識と一致しています。
その他にも、質問を少し変えて、「経営理念の作り方を教えて」、「経営理念を作るメリットは?」、「経営理念を一緒に考えて」と聞いてました。
そうすると分かってきたのは、ChatGPTは経営理念の定義や策定の方法論を教えるのが得意だということです。
つまり、ビジョン・バリュー・ミッションとは一体何か、ということや、どういう手順で考えたらいいのか、ということに関しては非常に細かく解説してくれます。ですので、経営理念の全体像の把握はChatGPTでできる、といえます。
いっぽうで、その定義や策定の方法論が分かったところで、意味のある経営理念を策定することができるのか、ということを考えると、まだまだChatGPTでは補えきれていない部分があるのではないか、と考えています。
経営理念で外せない要素は?
この点を考えるうえで、そもそも論として、理念の定義をもう一度おさらいしていきます。
経営理念の策定や浸透のメソッドについては生岡直人さんに師事しています。
生岡さんが仰る理念の定義は、「『本当に伝えたいこと』を“伝わる”レベルで言葉にしたもの」です。
ここで考えたいのは、この「本当に伝えたいこと」がChatGPTから返ってきた答えから導き出せるのか、ということです。ChatGPTが教えてくれる定義や策定の方法論に従ったら「本当に伝えたいこと」が言語化できるのでしょうか。
もっと極端な話をすると、ChatGPTに経営者の頭のなかをのぞき込む機能が備わっていて、その経営者オリジナルのビジョン、バリュー、ミッションを言語化することができた場合、それは「本当に伝えたいこと」になるのでしょうか。
確かに、ChatGPTを使えば手軽に言葉が出てくるかもしれませんが、経営理念を策定するにあたってはそれがかえってデメリットになる可能性に注意しなければいけません。
理念策定で重要なのは過程
では、「本当に伝えたいこと」を言葉にするときのポイントは何か。それは、理念策定においては過程を重要視する、ということです。つまり、出来上がった経営理念そのものではなく、作っていく時間が大切だということです。
ということで、ここからはどのような過程を経ると「本当に伝えたいこと」が言葉になるのか、ということをお話ししていきます。
感情が湧いていること
人は感情で動く生き物です。ですので、経営理念に感情が入っていないと「本当に伝えたいこと」にはなりません。
この点について、ミッションを策定するときには、ツラい記憶をたどりながら策定することもある、ということをお伝えしたことがあります。
では、ChatGPTを相手にツラい想いや、ワクワクとした気持ちを感じながら理念を策定することはできるでしょうか?想像していただけると、どんな感じになるか分かると思いますが、人工知能を相手に感情的になるのは難しいですよね。
もしかしたら、ChatGPTを使っていることによる高揚感は湧くかもしれませんが、これと「本当に伝えたいこと」が掘り起こされる感情は違うはずです。
関わる人全員で考えること
ChatGPTの言葉をそのまま借りると、価値観(バリュー)の策定は「社員が共感できる価値観を明確にすることが大切」です。
これを達成するためには、経営者だけで価値観(バリュー)を考えるのではなく、社員全員の意見を聞いて、実際に取り入れることが重要です。
社員の立場からすれば、自分たちの意見が反映されていない価値観(バリュー)を大切にしろ、と言われたところで、それは無理な話です。それでは価値観の押しつけになってしまいます。
ということを考えたときに、ChatGPTで生成された言葉がいくら社員の気持ちを汲み取った素晴らしいものであっても、社員が共感することは難しいのではでしょうか。人工知能が作った言葉に愛着が湧くのか、ということです。
共感されない理念はただの建前の理念です。建前の理念は何となくあったほうから作ってみた、と同じくらいのレベル感と言っても過言ではありません。
ですので、経営理念は社員全員で考えて議論する、という過程が重要なのです。社員全員の代役をChatGPTができるくらいになるのは、まだまだ先の未来だと思います。
壁打ちの壁がいること
壁打ちの壁とは、理念を策定するときに、質問や意見を投げ掛けてくれる存在をいいます。
質問の投げ掛けとは、たとえばビジョンを策定するときを想定すると、
「社長ご自身は、3年後にどうなっていたいですか?」
「3年後、どのような事業をしていて、社員にはどのように働いてほしいですか?」
「3年後、社員や取引先にどういう影響を与えていたいですか?」
というような投げ掛けです。
意見の投げかけとは、
「こっちの表現のほうが合っているのではないですか?」
「皆さんの反応をみていると、この言葉に違和感がありそうですがいかがですか?」
といった、投げ掛けです。
このような投げ掛けとそれに答えるとラリーがあって、さまざまな視点から、経営理念の要素となる言葉を掘り起こすことができます。
いまのところ、ChatGPTはこのラリーはできません。「一緒に考えてみましょう。手順は・・・」で対話が一方通行で終わってしまいます。
簡単にいえば、ChatGPTは人間と一緒に考える、ということはできないということです。もしかしたら、今後のアップデートでそれができるようになるのかもしれませんが。
まとめ
今回は、いま流行りのChatGPTを活用して経営理念を策定することの是非を考えてみました。安易に人工知能に頼るのではなく、適材適所で使っていきたいものです。
経営理念の策定で重要なのは過程
・感情が湧いていること
・関わる人全員で考えること
・壁打ちの壁がいること
今のところ、ChatGPT相手だとこれらを満たすのは難しい。