こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
歯科医院の開業資金は、年々上昇傾向にあります。保険診療中心の一般歯科であっても1億円は当たり前、自費診療やCT・マイクロスコープなど高額機器を導入すれば1億円を超えるケースも珍しくありません。
戸建て開業なら建築費や土地代が上乗せされるので、2億近くなることもしばしばです。
そんな物価高・建築費高騰が重なる昨今、「開業したいけれど資金面がネックで踏み出せない」という先生方のお声をよくお聞きします。
一方で、歯科業界にはある種の”強み”を持つ夫婦が多く存在します。ご夫婦ともに歯科医師であったり、配偶者が歯科衛生士や歯科技工士であったりするケースです。
この「パワーカップル開業」は、融資面でも税務面でも大きなアドバンテージになり得ます。
本記事では、夫婦開業における「青色事業専従者給与」の活用法と注意点を、具体的なシミュレーションを交えながら解説していきます。
夫婦ともに歯科医療従事者なら銀行融資で優位に立てる
銀行は「夫婦ともに医療従事者」をプラスに評価する
僕は日常的に歯科開業の融資をサポートしていますが、銀行の融資担当者から「配偶者の方も歯科医師さんなのですね。それは心強いですね」という趣旨のコメントをいただくことが少なくありません。
銀行にとって融資の可否を判断するうえで最も重要なのは「返済できるかどうか」、つまり事業の収益力と安定性です。
ご夫婦ともに歯科医療の専門資格を持っているということは、事業のマンパワーが盤石であることの証拠にほかなりません。
ただし「なぜ有利か」は自分たちで説明する必要がある
もっとも、銀行の融資担当者は歯科診療の現場には素人です。「夫婦ともに歯科医師です」と言っただけで、それが収益にどう結びつくのかを正確にイメージできるとは限りません。
だからこそ、事業計画書のなかで「夫婦二人が揃うことで、具体的にどのように収益が上がるのか」を定性的にも定量的にも示す必要があります。
具体的には、ご夫婦それぞれの資格や専門性に応じて、以下のようなアピールポイントを資料に落とし込むことが効果的です。
夫婦ともに歯科医師の場合は、診療ユニットを同時に稼働させられるので歯科衛生士不足による空白のアポ枠が発生しても、夫婦どちらかが診療することでユニットの未稼働時間を大幅に削減することができるという説明が有効です。
夫は治療中心、妻は美容歯科や矯正中心のように棲み分けをすることで守備範囲が広くなるメリットも効果的になります。
配偶者が歯科衛生士の場合は、予防歯科やメインテナンスの収益を安定化させるキーパーソンとしての位置づけになるかと思います。リコール率が上がり、ストック型の収益基盤が早期に構築される点は、銀行が好む「安定性」に直結します。歯科衛生士の採用コストが不要になる点も、経費面のメリットとして訴求できます。
配偶者が歯科技工士の場合は、技工物の外注費を大幅に削減できることを数字で示します。外注技工費は売上の7〜10%を占めることも珍しくないと思いますので、これを内製化できるのは利益率の改善に大きく寄与します。
もちろん技工士不足の問題にも強い耐性があることも特徴のひとつです。
このように資格の組み合わせごとにストーリーを変え、「売上増」と「コスト減」の両面から事業計画の根拠を明確にすることが、融資審査を優位に進めるためのポイントです。
夫婦開業の真のパワーと節税効果
配偶者が「稼ぎ頭」になるケースは珍しくない
夫婦で歯科医院を開業する場合、「奥さんがちょっと受付を手伝っている」というイメージを持たれがちですが、実態は違います。
配偶者が歯科医師であれば院長と同等に診療収益を生み出しますし、歯科衛生士であれば予防・メインテナンス部門の中核として安定収益に大きく貢献します。
つまり、配偶者も「稼ぎ頭」として医院の事業所得を押し上げる存在なのです。
事業所得が大きくなるほど「所得の分散」が効く
ご存じのとおり、日本の所得税は累進課税です。事業所得が大きくなるほど税率が上がり、所得税の負担は加速度的に重くなります。このとき威力を発揮するのが「青色事業専従者給与」です。
青色事業専従者給与とは、青色申告の個人事業主が、生計を一にする配偶者や親族に支払う給与を必要経費に算入できる制度です。
本来、個人事業では家族への給与を経費にすることは認められていませんが、青色申告者に限り、一定の要件を満たせば全額を経費として認められます。
事業所得1,000万円の医院を例に取ると、院長一人に所得が集中するよりも、配偶者に適正な給与を支払って所得を分散させたほうが、夫婦合計の税負担が軽くなる場合が多いのです。
特に配偶者が歯科医師や歯科衛生士として医院の収益に直接貢献しているケースでは、市場相場に見合う水準の給与を支払う合理性がありますから、税務上のリスクも低くなります。
パワーカップルならではの留意点
ただし、ここで一点注意があります。配偶者が歯科医師や歯科衛生士である場合、「世間相場と同程度の給与を支払えるだけの利益が出ていること」が前提条件になります。
歯科衛生士の平均年収は約400万円、歯科医師であれば勤務医の相場として600万〜800万円は一般的だとすると、これに見合う給与を経費に計上するためには、その分の利益が出ている必要があります。
逆に言えば、開業初年度で利益がまだ十分に出ていない段階では、高額な専従者給与を出しても事業所得がマイナスになるだけで、「節税メリットの旨み」を感じにくくなります。
あくまで税務財務的な意味ではありますが、利益水準と給与額のバランスが重要だということを押さえておいてください。
【シミュレーション】事業所得1,000万円で専従者給与500万円の有無で税額はこう変わる
ここでは、以下の前提条件をもとに、「青色事業専従者給与を支払わず配偶者控除を適用した場合」と「500万円の専従者給与を支払った場合」を比較します。
ちなみに青色事業専従者給与と配偶者控除は選択制なので、どちらか一方しか適用することはできません。
<前提条件>
- 事業所得(青色申告特別控除65万円控除後):1,000万円
- 院長・配偶者ともにほかに所得なし
- 所得控除は基礎控除と社会保険料控除(便宜上、院長の社会保険料控除を100万円、配偶者の社会保険料控除を専従者給与ありの場合は50万円と仮定)のみで計算
- 所得税の基礎控除は令和7年分以後の改正後の金額を使用(合計所得金額655万円超2,350万円以下:58万円、489万円超655万円以下:63万円)
- 住民税の基礎控除は43万円(改正なし)
- 住民税所得割は一律10%
- 復興特別所得税(基準所得税額×2.1%)を加算
パターンA:専従者給与なし(配偶者控除を適用)
【院長】
院長の課税対象となる事業所得は1,000万円です。ここから所得控除を差し引いて課税所得を算出します。
所得控除の内訳は、基礎控除58万円(合計所得1,000万円のため)、社会保険料控除は100万円、配偶者控除38万円の合計196万円です。
課税所得は1,000万円 − 196万円 = 804万円となります。
所得税額は速算表にあてはめて、804万円 × 23% − 63万6,000円 = 123万3,200円。復興特別所得税を加え、121万3,200円 × 102.1% = 123万8,877円(100円未満切捨て:123万8,800円)となります。
住民税の所得割は、基礎控除43万円、社会保険料控除100万円、配偶者控除33万円を差し引いた課税所得824万円に10%を乗じて82万4,000円。均等割等を含め約82万9,000円程度です。
院長の税負担合計は概算で約207万円になります。
【配偶者】
専従者給与を受け取っておらず、他に所得はない前提なので配偶者自身の所得はゼロです。所得税・住民税ともに0円です。
【夫婦合計の税負担:約207万円】
パターンB:専従者給与500万円を支払う場合
【院長】
事業所得1,000万円から専従者給与500万円を差し引くと、院長の事業所得は500万円になります。
所得控除は、基礎控除63万円(合計所得500万円=489万超655万以下のため)と社会保険料控除100万円の合計163万円です。なお、青色事業専従者給与を支払っている場合、配偶者控除は適用できません。
課税所得は500万円 − 163万円 = 337万円。
所得税額は337万円 × 20% − 42万7,500円 = 24万6,500円。復興特別所得税を加え、24万6,500円 × 102.1% = 約25万1,676円(100円未満切捨て:25万1,600円)。
住民税は、基礎控除43万円・社会保険料控除100万円を引いた課税所得357万円 × 10% = 35万7,000円。均等割等を含め約36万2,000円程度。
院長の税負担合計は概算で約61万3,600円です。
【配偶者】
配偶者の給与収入は500万円です。給与所得控除(令和7年分以後の改正適用)を差し引いて給与所得を計算します。
給与収入500万円に対する給与所得控除額は500万円 × 20% + 44万円 = 144万円。給与所得は500万円 − 144万円 = 356万円。
所得控除は、基礎控除68万円(合計所得356万円=336万超489万以下のため)と社会保険料控除50万円の合計118万円。
課税所得は356万円 − 118万円 = 238万円。
所得税額は238万円 × 10% − 9万7,500円 = 14万500円。復興特別所得税を加えて14万500円 × 102.1% = 約14万3,450円(100円未満切捨て:14万3,400円)。
住民税は、基礎控除43万円・社会保険料控除50万円を引いた課税所得263万円 × 10% = 26万3,000円。均等割等を含め約26万8,000円程度。
配偶者の税負担合計は概算で約41万1,400円です。
【夫婦合計の税負担:約102万5,000円】
比較まとめ
| 項目 | パターンA(専従者給与なし) | パターンB(専従者給与500万円) |
|---|---|---|
| 院長の所得税+住民税 | 約207万円 | 約61万円 |
| 配偶者の所得税+住民税 | 0円 | 約41万円 |
| 夫婦合計 | 約207万円 | 約102万円 |
| 差額(節税効果) | ── | 約105万円 |
このように、同じ事業所得1,000万円であっても、専従者給与を活用して所得を分散するだけで年間約105万円もの税負担の差が生まれます。これは累進税率のもとで所得を一人に集中させるデメリットがいかに大きいかを如実に示しています。
※ 上記は所得税・住民税のみの概算シミュレーションです。国民健康保険料等(歯科医師国保)の影響は考慮しておりません。実際の税額は個別の状況により異なりますのでその点ご留意をお願いします。
「自分達の場合はどれくらいの専従者給与が適正なのか」というシミュレーションは、個々の医院の事業計画次第になりますが、こちらの単発相談でシミュレーションできますのでご活用ください。

届出を軽く見ると”節税チャンス”を逃す ── 金額設定と変更届のポイント
届出金額を超えた給与は経費にならない
青色事業専従者給与を必要経費に算入するためには、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄の税務署に提出しなければなりません。
そして、ここが重要なのですが、届出書に記載した金額を超える給与は、たとえ実際に支払ったとしても必要経費に算入されません。
つまり、「節税のために支払ったのに、経費として認められない」という事態が起こり得るのです。これでは手元資金が出ていくだけで、何のメリットもありません。
開業当初の「控えめ設定」が裏目に出ることも
新規開業時、多くの先生方は「最初は赤字だろうから、専従者給与は控えめにしておこう」と考え届出を出すケースが見受けられます。この判断自体は堅実ではありますが、問題はそのまま放置してしまうことです。
歯科医院は、開業後半年〜1年で患者数が増加し、想定以上に事業所得が伸びることがあります。そのとき「もっと専従者給与を出しておけば所得を圧縮できたのに、届出金額の枠が低いままだった……」という状態になりかねません。
決算時に初めて利益の大きさに気づいても、遡って給与を増額することは認められませんので、その年の節税チャンスは取り返しがつきません。
変更届出で「最適解」を狙う
もっとも、専従者給与の金額は変更届出書を税務署に提出することで変更が可能です。
変更届には明確な法定期限の定めはありませんが、支給額を変更する前に遅滞なく提出する必要があります。また、変更後の給与額は「労務の対価として相当であること」が求められますので、配偶者の資格・業務内容・勤務時間と照らして妥当な水準であることが前提になります。
実務的なアドバイスとしては、開業初年度の届出は「上限枠をやや高めに設定しておく」ことをおすすめします。届出金額はあくまで上限であり、届出金額どおりに支払わなければならない義務はありません。利益が伸びてきた段階で支給額を引き上げれば、届出の枠内でスムーズに対応できます。
そのうえで、こまめに利益の進捗を確認し、年の後半に向けて専従者給与の支給額を見直していくのが理想です。この「こまめな利益モニタリング+給与額調整」こそ、夫婦開業における税務戦略になります。
まとめ ─夫婦開業の税務戦略は「早め・こまめ」が鍵
夫婦ともに歯科医療従事者である開業は、融資面では銀行の評価を高め、税務面では所得分散による大きな節税効果をもたらします。本記事で解説したポイントを改めて整理します。
第一に、融資では「なぜ夫婦開業が収益にプラスなのか」を資料で根拠立てて説明すること。配偶者が歯科医師なのか、歯科衛生士なのか、歯科技工士なのかによってアピールポイントは異なります。定性面と定量面の両方で、銀行が理解できる形に落とし込みましょう。
第二に、配偶者が稼ぎ頭として収益に貢献する場合、青色事業専従者給与を活用して所得を分散させることが税務上の基本戦略になります。
第三に、届出書の金額設定を軽視しないこと。届出額を超えた支給は経費になりません。開業当初は上限枠を余裕あるラインに設定しておき、利益の推移に合わせて実際の支給額をコントロールする方法が堅実です。必要に応じて変更届出を活用し、常に最適解を追求してください。
歯科の夫婦開業は、「早めの準備」と「こまめな見直し」を心がけると、夫婦の強みを最大限に活かした医院経営が実現できます。
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