【note】税理士のアタマの中

歯科の夫婦開業で知っておきたい所得分散と節税の基礎知識

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こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。

「開業したら年収はどれくらいになるんだろう」──これは開業を考える歯科医師の先生方が、一度は頭に浮かべる疑問だと思います。

ところが、この「年収」という言葉のとらえ方が、勤務医時代と開業後ではまったく違ってきます。勤務医であれば、毎月の給与明細に書かれた額面がそのまま年収になりますが、個人で歯科医院を開業した場合はそうはいきません。

この違いを正しく理解しておかないと、節税のコントロールができないという事態に陥ります。

本記事では、個人開業の歯科医院における税金のしくみと、夫婦で医院を経営する場合に活用できる「所得分散」の基本的な考え方を解説します。

ちなみに、具体的な税額シミュレーションや届出書の実務的な注意点については、こちらの上級編の記事で詳しく取り上げています。

基本を既に知っている方は読み飛ばして、一気に上級編に進んいただいて大丈夫です。

それでは早速、基礎的な話から進めていきます。

目次

個人開業の院長には「自分の給料」という概念がない

勤務医時代は、医療法人や勤務先の医院から「給与」を受け取っていました。給与は勤務先にとって経費であり、受け取る先生方にとっては年収の原資です。この関係は直感的にわかりやすいと思います。

いっぽうで個人で歯科医院を開業すると、この構造がガラリと変わります。個人事業主である院長は、自分自身に給与を支払うことができません。正確に言えば、仮に「院長報酬」として自分の口座にお金を移したとしても、それは税務上の経費として認められないのです。

では、院長の「取り分」はどこにあるのか。それは、医院の売上からスタッフの人件費や材料費、家賃などの必要経費をすべて差し引いた残り、つまり「事業所得」そのものです。この事業所得が、個人事業主である院長のいわば年収に相当します。

ここが勤務医時代との最大の違いです。勤務医であれば「給与=自分の所得」でしたが、個人開業医は「売上 − 経費=事業所得=自分の所得」になります。自分の給料をあらかじめ経費として差し引く枠組みが存在しないため、事業で出た利益がそのまま課税対象になるわけです

所得税は「利益全体」にかかる ── しかも累進で重くなる

個人事業の歯科医院において、所得税は事業所得に対して課税されます。先ほど説明したとおり、院長報酬を経費にすることはできませんから、院長が「自分の生活費として使いたい」と考えている金額を差し引く前の利益に対して税金がかかる、という点をまず押さえてください。

そしてもうひとつ重要なのが、日本の所得税は累進課税制度を採用しているということです。累進課税とは、所得が増えれば増えるほど税率が段階的に上がっていく仕組みのことです。

現在の所得税率は、課税所得195万円以下であれば5%ですが、195万円を超える10%、330万円を超えると20%、695万円を超えると23%、900万円を超えると33%と上昇していきます。最高税率は課税所得4,000万円以上の45%です。これに住民税の10%を加えると、最高で55%にもなります。

つまり、歯科医院の事業所得が大きくなればなるほど、所得税の負担は加速度的に重くなっていくのです。年間の事業所得が1,000万円の院長と500万円の院長では、税率の階段をどこまで上るかが変わるため、単純に所得が倍だから税金も倍、という関係にはなりません。所得が大きいほうが、税率の高い部分で多くの税金を支払うことになります。

この累進課税の構造こそが、次にお話しする「所得分散」という考え方の出発点になります。

夫婦経営なら「所得分散」で税負担を抑えられる

累進課税のもとでは、同じ金額の所得であっても、一人に集中するか二人に分散するかで税負担の合計額が変わります。

たとえば、事業所得が1,000万円ある歯科医院を考えてみてみましょう。

院長一人にこの1,000万円が集中すると、高い税率の階段を上ることになります。一方で、もし院長と配偶者で500万円ずつに分けることができれば、それぞれが低い税率の範囲に収まり、夫婦合計の税額は一人で1,000万円を負担する場合よりも少なくなります。

これが「所得分散」の基本的な考え方です。夫婦でともに歯科医院の経営に携わっている場合、配偶者に適正な給与を支払うことで、院長の事業所得を減らし、結果として夫婦全体の税負担を軽くできる可能性があるのです

ただし、ここで「適正な給与」と書いたことには理由があります。所得税法は、個人事業主が生計を一にする配偶者や親族に支払う給与を必要経費に算入することを原則として認めていません。家族間で自由に給与を設定して経費にできてしまうと、意図的に所得を分散させて税負担を不当に軽減することが容易になってしまうからです。

原則禁止の例外 ──「青色事業専従者給与」とは

では、夫婦経営の歯科医院では所得分散はまったくできないのかというと、そうではありません。所得税法には、この原則に対する重要な例外が設けられています。それが「青色事業専従者給与」という制度です。

青色事業専従者給与とは、青色申告をしている個人事業主が、生計を一にする(要はお財布が一緒の状態)配偶者や親族で事業に専ら従事している人に支払う給与を、必要経費として認める特例です。要件を満たしたうえで税務署に届出書を提出すれば、届出の範囲内で支払った給与を経費に算入することができます。

ここで「専ら従事」とあるとおり、配偶者が医院の業務に実質的に関わっていることが前提です。歯科医師として診療している、歯科衛生士として予防やメインテナンスを担っている、歯科技工士として技工物を製作しているなど、配偶者が医院の事業に具体的に貢献していることが求められます。

この制度を活用することで、院長に集中していた事業所得の一部を配偶者への給与という形で分散させ、夫婦合計の税負担を合法的に抑えることが可能になります。配偶者が歯科医療の専門資格を持ち、医院の収益に直接貢献しているケースでは、市場相場に見合う水準の給与を支払う合理性がありますから、税務上の否認リスクも低くなります。

夫婦で歯科医院を経営する最大の税務メリットは、まさにこの青色事業専従者給与の活用にあるといっても過言ではありません。

「節税」と「融資」のバランス ── 所得分散のやりすぎに注意

ここまで読むと、「できるだけ配偶者に多くの給与を支払って、院長の所得を減らしたほうが得なのでは」と思われるかもしれません。たしかに税負担だけを考えればその方向性は正しいのですが、実はもうひとつ見落としてはならない視点があります。それが銀行融資への影響です。

専従者給与を支払うと、院長の事業所得はその分だけ小さくなります。事業所得が小さくなるということは、確定申告書上の利益が減るということです。銀行は融資の審査において、確定申告書の所得金額を事業の収益力を測る重要な指標として見ています。

つまり、節税のために専従者給与を多く出しすぎると、決算書上の事業所得が過度に圧縮され、銀行からは「この医院は利益が少ない」と映ってしまうリスクがあるのです。特に、開業後数年以内に運転資金の追加融資や設備投資のための借入を予定している先生方にとっては、目先の節税が将来の資金調達の足かせになりかねません。

この点で、銀行との交渉においては、青色申告決算書の利益に専従者給与を足し直すことで、夫婦合計の利益を説得材料とすることもある種のテクニックになります

所得分散は強力な節税手段ですが、税負担と融資評価のバランスを見ながら適切な水準を探ることが大切です。このあたりの判断は医院ごとの事業計画や借入状況によって変わります。

まとめ

本記事では、個人開業の歯科医院における税金の基本的なしくみと、夫婦経営で活用できる所得分散の考え方を解説しました。ポイントを整理すると以下のとおりです。

  • 個人事業主である院長は、自分自身への給与を経費にすることができません。
  • 所得税は累進課税のため、所得が大きくなるほど税率が上がり、負担は加速度的に重くなります。
  • 夫婦で医院を経営している場合、青色事業専従者給与を活用して所得を分散させることで、夫婦合計の税負担を軽減できます。
  • ただし、過度な所得分散は確定申告書上の利益を圧縮し、銀行融資で不利に働く可能性があるため、節税と融資のバランスに配慮が必要です。

「では具体的にいくらの専従者給与を設定すればいいのか」「届出書はどう書けばいいのか」「実際にどれくらいの節税効果があるのか」──こうした実務的な内容については、上級編の記事で税額シミュレーションを交えながら詳しく解説しています。

基本の考え方を押さえたうえで、ぜひあわせてご覧ください。

▶ 上級編はこちら:夫婦歯科開業で使える青色事業専従者給与の活用術〜融資対策から節税シミュレーションまで〜


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