こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
インボイス制度は企業だけではなく、フリーランスと言われる個人事業主にとっても大きな影響があります。
そのなかでも、SES業界は特にインボイス対応が必須です。
というのも、インボイス制度はBtoB事業にもっとも影響を与える制度なのですが、SES事業は、基本的にその商流に事業者しか登場しないBtoB事業だからです。
結果的には、SES企業とフリーランスエンジニアの消費税の負担が増える可能性があり、フリーランスエンジニアはSES企業から値下げ交渉を受ける可能性があります。
「そんな理不尽なインボイス制度は断固反対!!」と、いうお気持ちはあるかもしれませんが、制度上これは避けられない事態で、制度開始後に実際に困っている方はいます。
ですので、SES企業とフリーランスエンジニアはしっかりと対策しておかなければいけませんし、逆に対策さえしておけば怖いものはありません。
対策は早ければ早いほど、取引先との予期せぬトラブルの防止になると思いますので、この機会にインボイス対応を終わらせておくことをおススメします。
ちなみに、インボイス制度の超基本的な仕組みから知りたいという方は、こちらのnoteで解説していますので、合わせて読んでみていただければと思います。
インボイス制度が始まるとどうなるのか?
SES事業のビジネスモデルはこのようなイメージかと。
下の図はSES企業が自社で雇用している従業員ではなく、外部のフリーランスエンジニア(個人事業主)を常駐先に派遣するケースを想定しています。
自社の従業員を発注元に常駐するケースは、インボイス制度はあまり関係ありません。

SES企業が受ける影響
SES企業が納めるべき納税額は、預かった消費税から支払った消費税の差額です。
これはインボイス制度後においても変わりありません。
消費税の納税額=預かった消費税ー支払った消費税
上の例でいうと、SES企業の納税額は10万円(預かった消費税)ー8万円(支払った消費税)=2万円になります。
インボイス制度の改正点は、エンジニアがどんな事業者なのかで、SES企業が、自分が支払った消費税を控除できるか・できないかが変わってくる、ということがポイントになります。
で、どんなエンジニアか、というのが消費税法上の「適格請求書発行事業者」の登録をしているか、どうかです。
インボイス制度開始後において、SES企業が支払った消費税を控除するためには、フリーランスのエンジニアが「適格請求書発行事業者」に登録している必要があります。
いままでは、エンジニアがどんな事業者であっても、適切な取引である限りSES企業は支払った消費税を控除できていました。
それが変わる、というのが、SES企業がインボイス制度で受ける大きな影響になります。
フリーランスエンジニアが受ける影響
これまで、消費税のことなんか全く関係がなかったフリーランスエンジニアであっても、インボイス制度の検討をしなければいけません。
理由はいまお話ししたとおりで、フリーランスエンジニアが「適格請求書発行事業者」に登録していないと、取引先であるSES企業の納税額が増えてしまうからです。
おそらく、既に取引先のSES企業から「インボイスの登録をしてね」と指示を受けてる方がいらっしゃるかもしれませんが、その裏にはこういう事情があります。
ただし、「適格請求書発行事業者」に登録するかは任意なので、SES企業から強制できるものではありません。
仮に、SES企業から無理に登録を強制されたり、強引な値下げをされた場合には、下請法の違反になる可能性があることにご留意いただければと(正確な判断は、弁護士その他専門家にお問い合わせください)。
ということで、いままで消費税の申告や納税をしてこなかったフリーランスエンジニアの選択肢は次のようになります。
- 「適格請求書発行事業者」に登録して、今までどおりSES企業が消費税の控除ができるようにしてあげる
- 「適格請求書発行事業者」に登録せず、SES企業の納税額が増える分の値下げをしてあげるどうかを検討する
「適格請求書発行事業者」に登録した場合に手続き面として面倒くさくなるのは、消費税の申告と納税の義務が発生するということです。
つまり、先ほどお伝えしたSES企業と同じように、預かった消費税から支払った消費税の差額を計算して納税をする必要があります。
このとき、フリーランスエンジニアは預かった消費税(上の図で言うと8万円)を税務署に納税しなければいけません。
「今までは預かった消費税をそのまま手元に残してOKにしてたけど、本当は国に納めるべき税金だからちゃんと納税してね」、というのがインボイス制度の趣旨のひとつでもあります。
なので、フリーランスエンジニアの立場からすると、キャッシュフローは減ってしまいます。
そこで、キャッシュフローの減少分を、SES企業に対して値上げ交渉するかどうか、というのも経営判断として必要になってきます。
負担軽減措置
ここまでお伝えしたとおり、インボイス制度は、SES企業とフリーランスエンジニアの両方に対して増税の可能性があります。
加えて、フリーランスエンジニアにとっては消費税の申告という手間も発生することになります。
国としてはインボイス制度で適切な納税を促したいわけですが、事業者からの反発も考慮しなければいけません。
ですので、一定期間に限定した経過措置を設けています。
いわば「いきなり変わるのはかわいそうだから段階的に変えていくのを認めてあげます」という国の配慮です。
この経過措置は、消費税を支払う側と預かる側の両方にあります。
SES企業(支払う側)の経過措置
繰り返しになりますが、消費税を支払う側(上の図で言うとSES企業)は、支払先(上の図で言うとフリーランスエンジニア)が「適格請求書発行事業者」でないと支払った消費税を控除することができなくなります。
これが原則であり、SES企業はフリーランスエンジニアが「適格請求書発行事業者」に登録していない場合は、発注元から預かった消費税10万円をまるまる納税しなければいけません。
支払った消費税8万円が控除することできないのでその分増税ということです。
でもそうすると、SES企業の税負担は急に重くなってしまいますので、仮に支払先が「適格請求書発行事業者」に該当しない場合も、2026年9月末までの取引は80%、その後2029年9月末までは50%の控除を認めています。
つまり、2026年9月末までであれば、SES企業の納税額は10万円(預かった消費税)ー6.4万円(支払った消費税8万円の80%)=3.6万円になる、ということです。
現行制度の納税額は2万円なので、1.6万円の増税になりますが、経過措置がなければ8万円の増税になってしまうことを考慮すると、だいぶ配慮されていることがわかるかと思います。
ですので、間違っても支払先に「支払った消費税がまるまる増税になるからその分値下げしなさい!」とは言わないようにしましょう。
ただ、この経過措置は、今までどおりちゃんと法令に則った請求書や帳簿を保存しておくことに加えて、経過措置を適用する旨を帳簿に記載しておかなければいけません。
問答無用で経過措置が受けられるわけではないことに留意が必要です。
フリーランスエンジニア(預かる側)の経過措置
先ほどお伝えしたとおり、「適格請求書発行事業者」になれば申告と納税の義務が発生します。
具体的にいうと、SES企業から預かった消費税8万円を納税しなければいけなくなります。
でも、それが税負担が急激に増えてかわいそうだ、ということで、その8万円から80%の控除を認めていいよ、という経過措置(いわゆる2割特例)ができました。
ですので、この経過措置を使うと、フリーランスエンジニアの納税額は8万円×(1-80%)=1.6万円になります。
ただし、この経過措置は、期間限定かつ2年前の売上が1千万円以下などの条件付きなので、年間何千万と稼いでいるエンジニアは適用できない可能性があります。
ちなみに、上の図の例だとフリーランスエンジニア自身が支払った消費税はゼロとしていますが、彼(彼女)らだって、経費と一緒に消費税を払っているはずです。
その場合、経過措置と原則がどちらが有利かを検討する必要があります。
もし、消費税がかかる経費が70万円あるときに、経過措置を使わず原則どおり計算すると、8万円(預かった消費税)ー7万円(支払った消費税)=1万円になるので、経過措置より原則のほうが納税額は少なくなります。
ただ、これも確定申告のときに有利不利の判定をすればいいので、期中はそれほど気にする必要はないかと思います。
まとめ
今回お話した、インボイス制度がSES業界に与える影響とその対応策を以下にまとめてみました。
もし、ご自身がどういう選択をすれば良いかイマイチ分からない場合は、下の公式LINEに登録してご相談いただければと思います。
- インボイス制度でSES企業とフリーランスエンジニアの消費税負担は増える可能性がある
- フリーランスエンジニアの選択肢は2つ
- 「適格請求書発行事業者」に登録して、今までどおりSES企業が消費税の控除ができるようにしてあげる
- 「適格請求書発行事業者」に登録せず、SES企業の納税額が増える分の値下げをしてあげるどうかを検討する
- SES企業とフリーランスエンジニア、両方に対して一定期間は負担の軽減措置がある