こんにちは、島田(つぶやきはこちら)です。
2025年12月19日に与党から税制改正大綱が発表されました。
(税制改正大綱というのは、与党が今後の税制の方向性を示すもので、翌年以降に国会を通じて法整備化されていく「草案」です。)
この記事では与党の考え方と、特に医療機関に関係のある改正内容をかいつまんで紹介していきます(改正内容を全て網羅して説明する記事ではない点にご留意ください)。
順番としては
改正内容の特徴・与党の考え方
↓
全業種共通の改正項目
↓
医療機関が留意すべき改正項目
で話を進めていきます。
改正内容の特徴・与党の考え方
(手取り早く改正の内容を知りたい方は本章を飛ばしてください。)
有言実行のスピードが早い高市政権ですが、税制改正大綱においてもその特徴が表れています(むしろ従来の政権はスロー過ぎた)。
「必要なものは取り入れる」「不必要なものは切り捨てる」というある意味さばさばした改革になりそうです。
やはり目玉は物価高対策としての基礎控除額等の見直しと、それに紐づく年収の壁の引き上げでしょうか。
新たに「178万円の壁」という言葉が出てきましたが、これは給与をもらう会社員に対してどこから所得税がかかるか、という壁です。
個人事業主は178万円の壁は適用されないのですが、この壁の一部を構成する基礎控除は会社員と同じように拡大されていますので、そういう意味では個人事業主にも恩恵があります。
とにかく大事なのは、与党が毎年物価高を税制でカバーする必要があるような状況だということですね。
稀に見る物価高の時代に生きているという自覚は持つ必要があるということです。
あと、先ほども言及しましたが、「不必要なものは切り捨てる」というメッセージも見え隠れしています。
具体的には、特例的な減税措置に対して「利用状況悪いのはやめるよ」「政策に合わないのは切り捨てるよ」というスタンスです。
指を咥えて「税金対策はいつか考えればいいだろう」という考えだとのちのち後悔するようなケースもたくさん出てきそうだなと個人的には考えています。
ということで、早速どんな改正が予定されているのかを見ていきましょう。
全業種共通の改正項目
年収の壁の引き上げ
人件費や物価が上がり、経営や生活を維持するためのお金も増えてきているという状況を踏まえて、基礎控除(誰でもその金額の年収までは所得税がかからない範囲)が拡大されます。
ざっと比較するとこのように変わります。
| 項目 | 現行税制 | 令和8年度改正案 | 改正のポイント |
| 基礎控除(本則) | 58万円 | 62万円 | 物価上昇率を反映し4万円引き上げ |
| 基礎控除(特例加算) | 最大37万円 | 最大42万円 | 所得489万円以下の層へ手厚く加算 |
| 合計控除額(最大値) | 95万円 | 104万円 | 本則62万円+特例42万円の合計額 |
| 所得税の壁(給与収入の場合) | 160万円 | 178万円以上 | 基礎控除と給与所得控除の合計で算出 |
| 適用時期 | – | 令和8年分所得〜 | 事務負担軽減のため、年末調整から適用 |
医療機関でいえばベースアップ評価料の算定があるかと思いますが、「せっかくスタッフにたくさん払っているのにその分税金で取られていく」という現象を緩和する措置だと考えていただければと思います。
ちなみに基礎控除は個人の合計所得金額によって変化します。
合計所得金額が増えれば増えれほど基礎控除は小さくなる仕組みです。
青色申告特別控除の拡大
青色申告特別控除とは、その適用を受ける申請をすると事業所得や不動産所得から一定の控除ができるルールです。
今回改正ではこの控除額が拡大されました。
具体的には現行が55万円の控除額のところ、e-Taxで申告すると65万円に拡大されます。
さらにこの65万円の控除額は、一定の電子帳簿保存法の要件を満たすことによって75万円に拡大されます。
純粋に10万円課税所得が減り、所得税と住民税が合わせて実行税率が20%とすると、年間で2万円節税ができる計算です。
なお適用開始時期は令和9年分以後の所得税からになるので、令和8年分は従来のままとなります。
少額減価償却資産の対象資産の拡大
少額減価償却資産とは、30万円未満の資産を年間合計300万円までなら一括費用計上できるという特例です。
経費計上できる減価償却費の総額は変わらないのですが、早く経費計上ができるので短期的にみれば節税になる特例と理解していただければと思います。
今回の改正で、対象資産の基準が一つ30万円未満の資産から40万円未満の資産に引き上げられました。
これも物価高に対応した措置と思われます。
実際パソコンやスマホは数年前に比べれば順当に値上がりしていますよね。
ただ、年間合計300万円までという制限を変更する文言は大綱から見つかりませんでした。
個人的には合計額が変わらなければ特例で買える資産の量が少なくなるので、年間合計額も上記の改正に準じて引き上げてもいいのではないかと考えています(年間合計400万円にするなど)。
なお、この改正に伴い、中小企業投資促進税制の工具、中小企業経営強化税制の工具及び器具備品の対象資産も30万円以上から40万円以上に引き上げられています。
特定生産性向上設備等投資促進税制の創設
一定規模以上の機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物及びソフトウェアで、かつ、特定生産性向上設備等に該当する資産を取得した場合は、即時償却又は7% (建物、建物附属設備及び構築物は4%)の税額控除を選択することができます。
特定生産性向上設備等とは経済産業大臣の確認を受けたもので、「投資下限額:35億円以上(中小企業者等は5億円以上)」と「収益性基準:年平均の投資利益率(ROI)が15%以上」の要件が課される予定です。
ちなみに即時償却とは取得価額を一括で経費計上できるという制度で、税額控除は取得価額の何%かを法人税または所得税から差引くことができる制度です。
個人的には工具、器具備品、建物、建物附属設備及び構築物が適用対象になったのが特徴的だと感じています。
これに関しては後ほど追記します。
賃上げ促進税制の見直し
賃上げ促進税制は「給与をたくさん払えばその分節税できますよ」という制度ですが、今回の改正では縮小することが示唆されています。
改正のポイントはいくつかあるのですが、ざっくりいうと
▶︎大企業向けは適用期限を待たずに廃止(令和8年3月31日まで)
▶︎中堅企業向けは適用要件を厳しくした上で適用期限まで継続(令和9年3月31日まで)
▶︎中小企業向けは令和8年度は現行制度を維持しつつ、期限到来時に改めて見直しが検討される予定
▶︎教育訓練費の上乗せ措置は廃止
といった感じです。
与党としては税制で賃上げを後押しする役割は一旦終えたという感覚なのでしょうか。
確かに、世間的に給与を増やすことはもはや当然のような風潮が漂っているので、この動きは妙に納得できます。
インボイス制度の経過措置の見直し
インボイスに関しては2つ大きな改正が予定されています。
2割特例の延長と縮小
小規模事業者に限って売上税額の2割を納めればいいという2割特例は2年間延長され令和10年分まで適用を受けることができるようになりました(現行は令和8年分まで)。
ただし、適用対象者は個人事業主のみになります。法人は2割特例の適用を延長することはできません。
免税事業者等からの仕入れ
免税事業者等からの仕入れにかかる消費税は80%控除が認められていますが、現行では令和8年10月から50%控除に縮小される予定でした。
今回の改正では、これがもう少し緩やかに縮小されることになりました。
具体的には、令和8年10月からは70%、令和10年10月からは50%、令和12年10月からは30%と段階的に縮減していき、令和13年9月末をもって終了するということです。
この改正には経理部や会計ベンダーは頭を抱えるでしょう。またやることが増えたのかと。
「激変緩和措置」と謳いながら、結局こういう中途半端なルールに振り回されるのは現場の人間です(ただの愚痴です)。
医療機関が留意すべき改正項目
ここからは医療機関に留意してもらいたい改正ポイントを解説していきます。
認定医療法人の適用期限の3年延長
認定医療法人による持分ありから持分なしの移行時における相続税・贈与税の納税猶予制度が延長されました。
医療法では既に延長が確定していたので税法はそれを追ったという形になります。
ただし、歯科の場合は保険診療8割要件が引き続き残っているため適用場面は限定的かと思います。
地方で保険診療割合の高い経営形態の医院は適用の検討の余地があることにご留意ください。
医師確保困難地域における診療所への措置(新設)
医師偏在対策として、医師確保重点区域内での承継又は開設する一定の要件を満たした診療所は登録免許税と不動産取得税が2分の1に軽減される措置が予定されています。
この改正は都心と地方とで診療報酬点数の差を設ける改定との関連性を強く感じます。
特定生産性向上設備等投資促進税制の創設(再掲)
制度概要は上述したとおりです。
特筆すべきは、従来の投資促進税制では医療機器は対象にならず医療機関での適用資産は限定的でしたが、今回工具、器具備品、建物と建物附属設備が対象に追加されたことです。
これにより、分院や増床を行なった場合のユニットや医療機器、そして建物や内装工事の支出について節税の恩恵が受けられると思われます。
たとえば分院展開するなら建物と内装で5億円を支出したとします。
その4%の税額控除が受けられるとすると、単純計算で2,000万円の節税になります。
ただし、中小企業者等は5億円以上の投資が必要になるので、無床診療所(例えば街の歯科医院)の規模だと適用できるケースはかなり限定的になると思われます。
病床があるような病院規模は適用の余地があるというイメージです。
感想
冒頭にも書きましたが、今回の改正は高市政権の勢いの良さを感じます。
医療も国策に左右される業界かと思いますが、それに乗るか背くかは別として、改正に対して感度高く情報収集して、検討の抜け漏れがないようにしていくことが大切です。
その意味では、顧問税理士とのコミュニケーションも鍵になってきますね。

