こんにちは、島田(@mshimada_tax)です。
コロナのゼロゼロ融資の返済が本格化し、ゼロゼロ融資を利用した中小企業の倒産が増えてきている、といったニュースが話題になっています(2023年8月現在)。
コロナ借換保証は、そのような倒産につながる債務返済の負担を軽減しようと整備されました。
このコロナ借換保証の申し込みにあたって提出が必要となるのが経営行動計画書。
(中小企業庁のページと様式はこちら)
経営行動計画書にはいくつか経営指標を記載する欄があって、計算式が記載されていますが、おそらくこの中で難易度が高く、記載欄が多いのが「EBITDA有利子負債倍率」という指標です。
英語+日本語という、一見とっつきづらい指標ですが、経営行動計画書に記載を求められるくらい、メジャーな指標でもあります。
今回は、この「EBITDA有利子負債倍率」とはどんなもので、どのように活用することができるのか、ということを解説していきます。

何のための指標か
では、具体的に「EBITDA有利子負債倍率」がいったい何を測る指標なのか、というと、「会社の返済能力がどれくらいあるか」を表す指標になります。
つまり、「EBITDA有利子負債倍率」は、金融機関から借入をするときの評価対象になる指標ということです。
「EBITDA有利子負債倍率」が、経営行動計画書の財務指標に載っているのは、事業者と金融機関が相互理解を深めることを目的とする「ローカルベンチマーク」で採用されているからです。
当然ですが、コロナ借換は、金融機関にもリスクが伴うものです。
事業者の業績不振は、金融機関にとっては融資した資金が返ってこなくなる可能性を秘めています。
なので、返済能力を適切に示して金融機関に納得してもらうために、「EBITDA有利子負債倍率」を記載することが求められているといえます。
まずは、”EBITDA”から
とりあえず、「EBITDA有利子負債倍率」は単語が長くて分かりづらいので、前半と後半に分解して順番にお話ししていきます。
前半のEBITDAは次の英語の略です。
正式名称は、「Earnings before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」となります。
日本語でいうと、「支払利息の支払い前、税金の支払い前、減価償却費の控除前の利益」であり、損益計算書の営業利益+減価償却費で求めることができます。
EBITDA=営業利益+減価償却費
なお、EBITDAを、「税引前期利益+法人税+支払利息+減価償却費」や「経常利益+支払利息+減価償却費」とする算式もありますが、上で紹介した「ローカルベンチマーク」や行動計画書の書式では「営業利益+減価償却費」が採用されているので、今回はこれをEBITDAとします。
ちなみに、EBITDAは多国籍企業や上場企業の業績を比較・分析する際に用いられることが多いです。
というのも、グローバルな視点で企業分析をするときには、国によって金利水準、税制、減価償却のルールが異なることから、これらの数値が影響しないEBITDAが有効だからです。
EBITDA有利子負債倍率とは?
次に、後半も含めた「EBITDA有利子負債倍率」についてお話していきます。
先ほどお伝えしたとおり、「EBITDA有利子負債倍率」は「会社の返済能力がどれくらいあるか」を測る指標であり、算式は次のようになっています。
EBITDA有利子負債倍率=(借入金-現預金)/(営業利益+減価償却費)
分母の「営業利益+減価償却費」が、気ほど説明したEBITDAそのものです。
そして、分子の「借入金-現預金」は、借入金から手元にある現預金を差し引いた、実質的な借入残高になります。
なお、手元にある現預金を借入金から差し引いているのは、その部分は資産(現預金)と負債(借入金)がトントンであり、借入がないのと同じといえるからです。
つまり、「EBITDA有利子負債倍率」は実質的な借入金を何年分のEBITDAで返済できるか、を表す指標になります。
もちろん、この指標は数値が小さければ小さいほど、早く返済ができることを意味するため、返済能力が高いと評価されます。
と、ここで一点補足です。
先ほど、EBITDAでは、国によって減価償却費のルールが異なるから、そのルールの差を解消するために営業利益に減価償却費が足し戻されているとお伝えしました。
実はもう一点、減価償却費が足し戻されている理由があります。
それは、「EBITDA有利子負債倍率」をキャッシュフローベースで計算するため、です。
というのも、減価償却費はお金の支出を伴わない費用だからです。
営業利益には、減価償却費が費用として含まれているため、営業利益に減価償却費を足し戻して、営業キャッシュフローを算定しています。
減価償却費とキャッシュフローの関係性をより詳しく図解しているのはこちらの記事になります。

経営行動計画書を記載する際の留意点
経営行動計画書の「4. 計画終了時点における将来目標」の欄には、借換後5年間の「EBITDA有利子負債倍率」の推移を記載する欄があります。
が、個人的には、この欄を事業者が自力で記載するのは非常にハードルが高いのではないかと思っています。
なぜなら、「EBITDA有利子負債倍率」は、損益計算書の営業利益や減価償却費だけではなく、借入金や現預金といった貸借対照表の数値を使うからです。
特に現預金。
借入金は返済計画をみていけば分かりますが、今後5年間、現預金がどのように推移していくかを見積もるのは難易度が高いはずです。
では、どうしたらいいのか。
ひとつは、資金繰り表を作ってみることです。

まずは、直近1年間の実績の資金繰り表を作成してみましょう。
そうしたら、今の業績だと1年間でどれくらい現預金が増えたか、若しくは減ったかが分かるはずです。
次に、実績の資金繰り表をもとにして、次年度以降の資金繰り表を作ってみましょう。
そうすれば、今後の現預金のおおよその推移がみえてくるかと思います。
もちろん、このときには次年度以降の売上や費用の計画を見積もって反映しなければいけません。
実績と同じ数値を当てはめるだけでは意味がないので、その点はご留意ください。
まとめ
返済能力を測る指標はいくつかありますが、そのなかでも「EBITDA有利子負債倍率」は比較的厳しく、その分実態に沿った指標といえます。
理解の難易度が高くみえますが、金融機関が重視している指標であることは間違いありませんので、正しく理解し、資金調達時に活用できるようになっておきたいところです。